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セミナーA
「趣味をビジネスに」

梯 郁太郎(ローランド(株)特別顧問)
原田永幸(アップルコンピュータ(株)代表取締役社長)
丸山茂雄((株)ソニー・ミュージックエンタテインメント取締役、
(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント取締役会長

コーディネーター:中島信也(CMディレクター、(株)東北新社取締役)

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■SeminarA

中島信也氏

●中島:このセミナーAは「趣味をビジネスに」というテーマで、しかも会社の偉い方ばかりが集まっているので内容的に難しいと思われる方が多いと思います。本日、梯さんはお休みですが、メッセージと映像が届いていますので、それをご紹介していきます。伝説の人物とも言えるお二人の人生を解明していくことは、会場の若い方にとっては一番の勉強のネタになります。まず丸山さんはエピックソニーレコードをつくって、ロックをひとつのビジネスにした。またプレイステーションを立ち上げたという時代の最先端にいる人物です。この丸山さんも、楽しいばかりで生きているわけではありません。まず、広告代理店に就職しました。その広告代理店で何かがいやだったんですよね。

●丸山:学校を出たのが1964〜5年です。ちょうどマーケティングという言葉が入ってきた頃です。本を読むと、広告代理店がマーケティングの中心にあって、世の中を動かしていると書いてありました。そういう専門のことができるのならと広告代理店に就職しましたが、クライアントが威張りくさっていて、代理店は使い走りばかりで、頭を使わない、足の仕事しかまわしてもらえない。それでも注文をいただくわけですから頭を下げなければならない。そんな人生が60才まで続くのかとちょっと煮詰まっていました。 ソニーの読売新聞の担当をしていた1968年にCBSソニーというレコード会社設立の社員募集広告を新聞ではなく、製版会社で製版の段階で見たんです。今度はクライアント側になって広告代理店をこき使ってやれと思い、CBSソニーに入りました。レコード会社というのは、できるだけ宣伝費を使いたくない業種なんです。一番いい方法は、ラジオで曲をかけてもらうこと。テレビ番組に出演すればただで歌えてギャラがもらえます。一方、TVスポットだと15秒で何十万円です。結局、ラジオでかけてもらう、テレビにだしてもらう、雑誌に取材してもらうために、テレビ局のディレクターや雑誌編集者にお願いしなければならない。特に新人の場合はそうです。またまた頭を下げまくることになりました。

●中島:それで徐々に丸山さんの頭が白くなるわけですね。エピックレコードの設立のきっかけは?

●丸山:CBSソニーは全く賞に縁のないレコード会社でした。アイドルがたくさんいて、売れているけど賞はとれない。それで、評論家たちに賞をくださいとお願いしてまわるんです。賞をくれと言うのはどうも私の生き方と違うなと思ってさぼっていたら、会社の方針に従わない理由ではずされて、エピックソニーに行きました。そこで、頭を下げなくてもいいジャンルは何かと考えたんです。ロックミュージシャンは賞が欲しいなんて言うはずがないので、エピックはロックを中心にしようと思いました。それに、テレビに出ないのが格好いい時代でしたし、ラジオには向かないからとラジオ局もロックをかけてくれません。ほとんど頭を下げなくてもいい、すごく楽しい時期でした。 人間は成功すると傲慢になります。その頃、どうすれば音楽が売れるかという方程式がわかったつもりになっていました。あとで大間違いだと気づくのですが、80年代はその方程式でよかった。時代によって方程式が変わるんです。それに気づかず、わかったつもりになって、答えがでることをやっても仕方がないという気になっていました。

●中島:音楽に対して少し飽きていたところへ、突然プレイステーションの話が降って湧いてくるんですよね。

●丸山:私は3回左遷されました。机はあるけど仕事がなくて、ゲームばかりやっていた時期があります。テレビゲームが面 白いということが1つ。もう1つは、日本の音楽は日本だけで世界に行けない、映画もダメ、しかしゲームは日本発で世界に行けると思ったんです。それでゲームに興味を持ったんです。その時にプレステの話があった。ソニーがやるのだったら、ものにした方がいいと思った。

●中島:丸山さんはレコードの方のトップということで、当時、ソニーの大賀社長に丸山さんから直談判という形になった。それがプレステのスタートなんですね。ある意味、頭を下げるのがいやでCBSに入ってなかったらプレステはなかったかもしれない。エピックでドリカムをはじめミュージシャンがいなくなるという危機感がなかったら、プレステはなかったかもしれない。ゲームをやってなかったら…。「趣味をビジネスに」というテーマですが、趣味なんかではなくて、切羽詰まったお話だったと思います。原田さん、どうですか。

●原田:ビジネスというのは、何も無いところから生み出す、創造する。皆さんの創造を超えるものを生み出すこと。これが基本だと認識しました。


丸山茂雄氏
 
 

●中島:欠席の梯さんは、日本での電子楽器の技術的な部分での発明をやっていた方です。梯さんからのメッセージがあるので、映像を見ながら進めていきます。 電子楽器や電子技術を利用すると、どんな芸術表現ができるのか、いくつかの例をご紹介します。

■「絵」の見えるオルガン・アレンジ 1920年代のアメリカでは、劇場で無声映画を上映しながら、その内容にあわせてオルガンの演奏を行っていました。この映画の伴奏をするためにつくられた大型のパイプオルガンは、シアターオルガンと呼ばれ、全米の映画館に常設されていました。トーキーの出現とともに、シアターオルガンは消えていきましたが、デジタル技術が身近なものになり個人でも簡単に映像を取り扱うことができるようになった今、音と映像を表現者が積極的に組み合わせて使っている音楽シーンにVJがあります。ライブの音楽演奏に映像をシンクロさせた本格的な試みは、5年ほど前に開催された坂本龍一と岩井俊雄のコンサートだったと思います。当時は、大変な準備と仕掛けが必要でした。
これから紹介するのは、最新のコンピュータ技術を使って、演奏者自身が用意した映像とライブ演奏の両方をその場で簡単にコントロールすることを可能にした新商品DV-7プレゼンターを使ったシステムです。このシステムの大きな特徴は、演奏者の楽器側の操作で映像を切り替えられるという点です。つまり、映像切り替え担当の専任オペレータが必要ないのです。しかも演奏者に負担をかけずに使えるレベルにきたと思います。 【映像1】

●中島:ローランドが最初に提唱した規格、MIDI信号を使っています。MIDI信号というのは、音楽用の信号でもあるのですが、これで映像の信号を動かしているのです。演奏している人がその場で映像をスイッチするというものでした。

●丸山:ミュージシャンのできることが広がりました。映像データを選ぶことにもミュージシャンが関われる。音楽だけじゃなく、映像の才能も必要になってきます。今後は、音楽だけではなく、どの瞬間にどの映像を使うかというセンスが必要になってきます。技術が進歩すると要求される才能の領域がどんどん広がるので大変です。ダ・ヴィンチのような何でもできる人が必要になります。

■アンタッチャブルであったヒューマンヴォイス 楽器の中で最も素晴らしいものは、人間の声だと思います。人間の声は音の3要素である音程、音量 、音色の他に歌詞という情報をのせられる点が、どの楽器も及ばない特徴です。しかし、人の声はいったん録音されると、わずかな音程のずれは補正できても、音程を大きく変化させようとすると音色まで変わってしまうので、あとから鍵盤で音程を変化させてメロディを歌わせることは不可能です。
そこに挑戦したのが、ローランドが開発したバリフレーズ技術です。これは、録音された音声の音程、テンポ、音色のそれぞれを独立したものとして、リアルタイムにコントロールできる画期的な技術です。バリフレーズを搭載した楽器を使えば、鍵盤を弾いて音程を指定すると、もとの特徴を保持したまま音程だけが変わるので、人の声を鍵盤で演奏する。言い換えれば、人の声を鍵盤で歌わせることができるのです。キーボードVA-7はバリフレーズ技術を使った製品の第一号機です。
【映像2】
■私は、電子楽器の本来の方法はあくまでも演奏者の音楽表現をサポートすることだと考えています。確かに打ち込みによる自動演奏が役に立つ分野もありますが、人間が行う演奏表現すべてを数値に置き換えられるものではありません。どんなに映画の技術が発達した現在でも、劇場で実演される演劇が盛んなのはその良い例です。打楽器の多様性と人間のインターフェースに着目して、開発に取りかかったのがハンディパーカッションHPD-15です。 【映像3】

●原田:実はこの楽器を衝動買いしました。これ1台あると何時間でも遊べます。何百種類という音源が入っていますから。ローランドの宣伝するみたいですけど、新しいヒューマンインターフェースのパーカッションです。

●中島:梯さんから、今ローランドでやっていることの探求といいますか、まとめのメッセージもいただいています。
最初にご覧いただいたのは、当然切り離せない音と映像の組み合わせをライブ演奏の世界で実現させたいという気持ちから生まれたシステム。次は、ヒューマンヴォイスを鍵盤で演奏できるようにしたいという考えから生まれたもの。最後は電子楽器の持っている可能性を打楽器という形のままシーンインターフェースを使って、フルに活かすことを目標とした商品です。これらは、私が「趣味をビジネスに」のテーマに基づいて、当社が発表した商品の中から選んだものですが、従来の楽器業界から見ればとんでもないものであり、販売の可能性とか、予想マーケットサイズのレポートを事前に調査会社に頼んだら、市場なしという回答が返ってきたに違いない商品です。言うなれば、私の趣味から生まれた商品です。ここで言う趣味とは、演奏者が新しい楽器を演奏したと頷いてくれる楽器をつくるという趣味です。この趣味から生まれた商品はこれまで十数機種にのぼり、利益をあげてきました。電子楽器のマザーカントリーであるアメリカをはじめローランドが世界中で足場をつくれたことは、趣味の結果 であると信じています。

●中島:梯さんは常に演奏者の満足をイメージしてつくっている。人を喜ばせることが趣味になっている。そのことがビジネスとしてうまくいっているんだと思います。単純な技術開発ではなくて、演奏という人間の魂に触れる部分を念頭に置いてやっているということですね。
次は、ミュージシャンを志して家を飛び出したという原田さんにお話していただきます。


梯 郁太郎氏
 
 
 
 
 
 
 
 
 

原田永幸氏
原田:私は音楽を趣味にずっとやってきました。楽器を演奏する、音楽を聴く、典型的な趣味ですね。音楽をビジネスにしている人たちもいます。それでは、趣味とビジネスではどう違うのか。私は大学を卒業する直前に、自分の力では飯は食えないと気づき、コンピュータ会社に就職しました。以後、30年以上コンピュータばかりやっているのですが、趣味の領域からビジネスにするというのは、お客様あってのことです。私がいつも社員に言っているのは、すべての企業の目的はユーザをつくること。ユーザを満足させるということは、常に感激を味わっていただくことです。その感激は、絶対値ではなく期待値を超えることなんです。相対的に、お客様の期待を超えた時に感激していただけるんです。フットボールゲームはするな、競合会社と真っ向からぶつかって点を取り合うように競争はするな。むしろ、オーディエンスが誰が良かったか判断するフィギュアスケートのようなゲームをやれ。必ずユーザの方を向いて、期待を超える。これがビジネスの基本だといつも言っているんです。

●中島:わかりやすく言うと、他のコンピュータ会社との戦いにあけくれるのではなくて、使う人のことを考えるということですね。

●原田:営業がオーダーを落とした時に必ず3つのことを言います。1.価格が高かった。2.商品が負けた。3.客が分かってくれない。これは間違いです。高くても売れるものは売れています。お客様がわかってくれないのではなくて、感激していただける手法を考えることが大事なんです。
「人の手に触れるテクノロジー」これはキャッチフレーズです。半導体など奥の方にある技術がたくさんありますが、直接人の手に触れるテクノロジーがアップルのテクノロジーの特徴の1つです。
「極めればここまでできる」アップルの企業文化の象徴として、私の趣味を生かしてバンドをつくっています。アップルの企業文化をつくったのはユーザだと思うんです。アップルがつくった企業文化ではなくて、Macを使うユーザがアップルのカルチャーをつくった。そういう意味で、ユーザのコミュニティが大きな資産なんです。私どもの資産はブランド、ライフスタイルブランドと言っています。それにMacのテクノロジー、それとユーザのみなさんです。ユーザのみなさんとコミュニティを確認しあう、発展しあうという意味で、マックンロールナイトというイベントがあります。写 真は私どものバンドでリンゴスターズです。極めればここまでできるのです。
アップルの企業文化を簡単に紹介すると、ロックンロールプレーヤーです。IBMはシンフォニープレーヤーです。いわゆるチームプレイ、人とのハーモニーを大事にしていく企業文化です。アップルの場合はロックンロールプレーヤーで、自己パフォーマンスを考えるのが企業文化です。チームプレイだと個人のイノベーションは起こらない。なぜiMacのようなイノベーティヴな商品ができたのか考えると、人がつくっているからです。開発のエンジニアは辞めたり、新しい人が入ってきたりするわけです。ところがアップルに入社するとMacをもっと完成しようという気持ちになる。すなわち、新しいイノベーティヴな商品が生まれるのは、人であり、企業文化であると思います。したがって個人の評価は成果 主義です。
ロックンロールプレーヤーが危険なのは、バラバラの方向へ行きかねないことです。それでは、ジャズプレーヤーを目指せばいいのではないでしょうか。最初はアンサンブルから始まって、個人プレイ、掛け合い…こういう企業文化ができたらいいと思っています。まだまだロックンロールプレーヤーなので、バラバラの人間をはみ出さないようにするために、日々頑張っています。
「趣味をビジネスに」というタイトルだったのですが、私たちのやっていることを考えると、趣味と同じようにビジネスを楽しんでいます。お客さまに感動していただけるMacをお届けするのが楽しい。そういう人材がアップルに入ってくるんです。感性が合う人が入ってきて成功するんだと思います。したがって「ビジネスを趣味に」という気持ちがアップルの企業文化かもしれません。

●中島:「趣味をビジネスに」というテーマで議論して、結論が「ビジネスを趣味に」という、コペルニクス的展開になりました。ありがとうございました。
趣味もビジネスも単体では存在していない、三人は全力で自分の持てるすべてを生かしてここまできたということがわかったのではないでしょうか。趣味がどうだ、ビジネスがどうだということより、もっと渾然一体となっていて、コミュニケーションということ、人ということもでてきました。そういった中で一生懸命自分を見つめて、こうありたいという気持ちで進んできたことが、今日聞いておられた若い方たちには本当にいいお話だったのではないでしょうか。なかなか簡単に結論づけることができないセミナーでしたが、ヒントがいっぱい盛り込まれていたと思います。
 
(セミナーでの発言から一部を抜粋して掲載しています)
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