TOPeAT`04eAT`03eAT`02eAT`01eAT`00eAT`99eAT`98eAT`97
セミナーB
「表現はビジネスか」

鈴木敏夫(徳間書店常務取締役、スタジオジブリ事業本部本部長)
コーディネーター:中島信也(CMディレクター)
TOPeAT`03SeminarASeminarBSeminarCSeminarD03ゲスト一覧
■SeminarB

中島信也氏

●中島:こんにちは。今日はスタジオジブリの鈴木さんが来てくれました。「表現はビジネスか」というテーマでお話いただきますが、なかなかなんですよ、このオッサンが。なかなか正体を明かさない。まぁジブリの森から出てきてますからね。宮崎さんってどんな人なのか、みなさん想像もつかないと思います。それでは始めましょう。僕は、司会をする時は下調べをするのですが、今日は相手がタヌキかキツネなのでシナリオが書けない。それでもなんとかモヤみたいなものをつかんできましたので、これでやっていこうと思います。鈴木さん、金沢はどうですか。

●鈴木:郷土料理がおいしかったです。何て言うんでしたっけ?

●中島:治部煮です。

●鈴木:あっそうそう。あれはおいしかったです。

●中島:スタジオジブニっていうくらいですから。(会場爆笑) 日本が世界に向けて誇れる文化は何かというと、いま元気がない日本の中で唯一元気のあるアニメーションです。その中でも「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」。「千と千尋の神隠し」はアカデミー賞どうなるか楽しみですけども、監督は宮崎駿さん、鈴木さんはそのプロデューサーなんです。そこで、プロデューサーというのは何なんだというのが今日のテーマでもあると思うのですが、宮崎監督とは25年のおつき合いなんですよね。

 

鈴木敏夫氏

鈴木:宮崎さんと初めて話したのは78年の5月です。アニメージュという本の編集をやっていて、その創刊号の中で話したのが最初なので覚えています。その時は「赤毛のアン」を高畑さんが監督、宮崎さんはレイアウトを担当していました。その後、81年にアニメージュの中で宮崎駿の大特集をやりました。創刊号で高畑さんと宮崎さんの二人が関わった「太陽の王子ホルス」を取りあげようと彼に連絡しました。当時僕はそれほどアニメーションに詳しくなかったのですが、創刊に関わっていた担当者からいきなり仕事をふられたんです。それまでは「アサヒ芸能」という週刊誌の担当でした。
突然の話でアニメの知識はまったくありませんから、1日目に高校生のアニメファンからいろいろ話を聞き、2日目に創刊号の内容を決めて、3日目にスタッフを集めました。その時の話が「太陽の王子ホルス」でした。それで高畑さんに電話をしたのですが、なかなかインタビューの話を受けてもらえず、宮崎さんなら話を聞かせてくれるかもしれないというので紹介していただきました。宮崎さんは、逆に何ページ割いてくれるのかと聞くので、8ページと答えると16ページ割いてくれないかと言うんです。その時は残念ながら取材は出来なかったんですけど何か印象に残りました。

●中島:そうした縁でおつきあいが始まるわけですが、プロデューサーの立場で会うようになったのはいつごろですか?

●鈴木:「ルパン三世 カリオストロの城」の頃から毎日会うようになりました。作っているところから取材したいと思って会いにいくのですが全然答えてくれません。どうしてかと思ったら、宮崎さんに「アニメージュは見たけど、ああいう不埒な雑誌に自分のインタビューが載るのはいやだ」と言われ頭にきまして、彼が仕事をしている横に陣取ってずっとそこにいたんです。そしたら「帰ってくださいよ」って言うんです。「インタビューに答えてくれたら帰ります」と言い返して、結局その日はずっとそこにいました。向こうもさすがですよ。12時になろうが1時になろうが帰らないんです。結局4時頃になりましたか。仕方がないので翌日も9時から訪ねて行きました。また隣に陣取って…それで毎日行くようになり1週間目くらいにやっと「いいですよ」って言ってくれました。そして気づいたら25年間、毎日会っていますね。旅行するのも、仕事するのも四六時中一緒で、25年経っても横にすわっているわけじゃないですか。毎日30分〜1時間、長いときは3〜4時間何かしゃべっているんです。

●中島:話の中身は床屋さんでの会話に近いと何かでうかがいました。

●鈴木:世間で何か起こっていると必ずそれが話題になります。この前のチャレンジャーの事故なんかそうですね。「落ちましたね」と。「ずいぶん古い機体を使ってたんですね。アメリカも貧しいのですね。さびしい話です」というと「なるほど、そんな見方もあるのか」と言って納得して仕事に戻ります。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
●中島:プロデューサーというとお金とかスタッフを管理して、ビジネス、ビジネスしているのかと思いましたがそうじゃないところからお二人の出会いが始まって、いまも続いてるということですね。iモードでもおもしろい話があるそうですが。
鈴木:宮崎さんは新しいものに警戒心を抱きます。ゲームなんかでも「ゲームはよくない。アニメの敵だ」と言います。ワープロが登場した時は、字のきたない人もきれいになると彼は感激しました。結論が早いんです。コンピュータで制作管理をやり始めた時は大変でした。仕事をしている人をじっと見て、手で描けばあっという間にできることを時間をかけて無駄だと。新しいものにいちいち定義づけしないと気がすまないのです。困ったのは、どこもコンピュータで絵を描くようになって現場が欲しがった時に、宮崎さんは絶対ダメだと言っている。どうやって説得しようかと困ったわけです。その時、宮崎さんがワープロはいいと言っていたことを思い出しました。彼の見た目では、ワープロはノート型、コンピュータはデスクトップ型でした。それならノート型のコンピュータにしようと。でも宮崎さんが気づくんです。「鈴木さん、なんでこんなにワープロが必要なの」って。(笑) ある時、宮崎さんが「今度ストーリーの中でワープロを出すから」と言いました。「耳を澄ませば」の中でお母さんがワープロを打つシーンがあったのですが、そのモデルになっているのが実はMacなです。(笑)

●中島:本人はワープロだと思って描いてたのですね。

●鈴木:先ほどのiモードの話ですが、携帯電話が出た時も彼は非常に警戒心を抱いたんです。電話というのは線がついていなきゃダメだ、無線ってなんだと世の中からだんだんずれていっちゃう。僕としては、あまりずれちゃいけないので、いまiモードというのがあって、ジブリでもこんなにリクエストがあると言うと、彼は「くだらない」の一言で切り捨ててしまいます。でもそこで終わらない人なんです。その話の後、僕の所へ来て「鈴木さん、アニメーター全員にアンケートをとった」と言うんです。質問は「携帯を持っているか」「iモードをやっているか」の2つ。回答した6人くらいの名前が書いてあり「くびにしよう」と言いました。(会場爆笑) 彼の理由は確かに一理あるんです。絵を描くことを職業として選択した人が絵以外のことに興味を持つとは何ごとか。これが彼の理屈です。世の中にはモノを味わわせたいという人間と味わいたいという人間の2種類しかいない。味わいたいという人間はそれでいいんだ。ただし、味わわせたいと思った瞬間、ありとあらゆるものを遮断すべきであると。実際に彼はそれを実行に移しています。

●中島:だんだん宮崎さんの実像が見えてきましたが、何を食べておられるのですか。

●鈴木:25年間、食べ物は変わっていませんね。彼は、毎日お昼はお弁当です。昔のアルミの弁当箱です。その弁当箱にごはんがぎゅうぎゅう詰め、おかずはきんぴらとかシャケとか。

●中島:昨日の晩ご飯の残りみたいですね。

●鈴木:たいして変わらない。お昼になると箸を出して2つに分けます。右半分がお昼のごはん、左が夜のごはんです。食事時間は長くても5分、後はひたすら描いています。

●中島:時間がもったいないという感覚なんですかね。楽しみとかじゃなくて。

●鈴木:こういうご時世になって、みんな付加価値を問題にするようになりましたよね。どこの店がおいしいとか。彼は一度もそういう話をした試しがない。少し誇張して言えば必要だから食べる感じです。しかも5分で。1年に数回、偉い人と料亭で食事することがありますが、出てくる料理の一つ一つが気になって仕方ないわけです。いちいちこれは何かと聞いて食べて「おいしい」と言います。みなさん笑ってますけど、彼は弁当だからおいしいとかまずいとか考えたことないんです。1年に数回の食事がまさにごちそうなんです。ハレとケを知っている。

●中島:もともと日本の暮らしにハレとケはあったはずですから。

●鈴木:彼は普通の人より明らかに五感が優れていると思います。その原因は何かというと弁当にあると思います。

●中島:感覚をとぎすますために余計なものを遮断しているわけですね。宮崎さんは洋服はどうなんですか。

●鈴木:コートは似合うから着るんじゃなくて、寒さをしのぐために来ています。衣食住の人間の原点を守りぬいてますね。

●中島:それ、放っとくと変人ですよ。

●鈴木:でも、いま世の中が逆にそれに近づいているんじゃないですか。

●中島:飽食の時代といわれて、おいしいものは何でも手に入る時代なのに、彼は徹底しているんですね。朝、時事の話題を一つ話して、弁当を5分で食べる。ジブリでは、若い人はそれを見習わないといけないんですか。

●鈴木:それは強要しませんよ。若い人でやってる人もいません。別の形でやってる人はいます。マクドナルドを毎日続けるとか。

●中島:でも、ファストフードやコンビニの弁当と宮崎さんの食べている弁当が同じではないと思いますが。

●鈴木:これは僕が感心していることですが、やはり時流にのっておいしいものを食べたいですからね。要するに彼がストイックであるということだと思います。

●中島:宮崎さんは何か楽しみとかないんですか。

●鈴木:楽しみ事はありますけど独特なんです。たまに「今日は映画を見に行く」と宣言する日があります。彼は普段ほとんど映画を見ません。監督としては珍しい人です。夕方帰ってきて「今日はよかった」と。何を見たのか聞くと、5本見てきたと言うんです。タイトルも見ないで、映画館に入り、気に入らないと5分くらいで出てくる。気に入ると20分ほど見てまた出ちゃう。映画を最初から見ることはありません。ある時のことを強烈に覚えているのですが「今日は本当によかった」と言うので何がよかったのか聞くと、タイトルは覚えてないがモンゴルの映画の戦闘シーンでわからなかった鎧が再現されていて、それがよかったと。要するに鎧しか見てないんです。その鎧が動いた時にどう変わるかを見てきたんです。それが彼にとってとても充実した1日だったわけです。
●中島:山田洋次監督がけしからんということがあったとか。

●鈴木:寅が押入に入っている時にみんなが悪口を言うシーンをTVで見たらしく、一人の人間をそういうふうに追い込む監督は許せないと。

●中島:僕は寅さんと宮崎監督がどうしても重なって見えてしまう。繊細で純粋で、時代の流れでないといいますか。お二人の間で映画の一番大切なタネの部分を決める時は鈴木さんに相談するんですか。

●鈴木:今度これをやるけどどう思うかと聞かれますね。「千と千尋の神隠し」の時なんかは、彼は別の企画を考えていて、その時は反対しました。別に話し相手は誰でもいいと思いますが、僕の場合は単に相性がいいということでしょう。出会って、気があったわけです。

●中島:宮崎さんは描くだけで、ビジネスのことはまったく考えてないのですか。

●鈴木:いや、それは違いますね。彼は常々若い人たちに、映画を作る時に大切なものは3つあると言っています。「その1、おもしろくなきゃいけない」「その2、伝えたいことをハッキリさせなければいけない」「その3、お金が儲からなければいけない」それが商業映画の宿命であると言い続けています。

●中島:それは意外ですね。
 
●鈴木:宮崎さんは経営者の感覚もあると思いますよ。彼はスタジオ3作品とよく言ってまして「3つ作ったらスタジオは使命を終えるんじゃないか」が彼の考え方です。それで過去に一度ジブリを解散しようという話が出たことがあり、僕がもっとやろうと言うと、彼はその条件としてスタッフ全員の正社員化を提案してきました。それまでは企画ごとに人を集め、解散していました。でも、それでは人は育たない。それまで僕は雑誌を作りながらジブリに関わっていたのですが、ジブリの専属になってくれと言われました。僕としては覚悟が必要です。
当時スタッフの給与はすごく安かったのですがそれを倍にしようと。そうするとアニメ制作コストはほとんどが人件費ですから、予算は倍かかることになります。それを言い出す宮崎駿という男は経営者としての目もあるなということです。実は「もののけ姫」を作っている時、今度は僕の方から、ある程度社会的使命を果たしたと思うのでもうこれで終わりにしようかと言ったことがあります。その時は逆に「鈴木さん、社会的責任はどうするの」なんて言うんです。
彼はある雑誌のインタビューで「鈴木さんとはあらゆる場面で意見が一致してきたけど、一致しなかったことが一回ある。それはやめる時期だ」と答えています。もし一致していたら、いまのスタジオジブリはなかったかもしれません。最近、不思議に思うのは先ほどの3つの映画づくりのポリシーの中でトトロだけは違っていたのかなと思います。
宮崎さんの話を聞いた時のトトロはいまと違うストーリーでした。トトロが最初から出ずっぱりで。それまでは反対したことがなかったのですが顔に出てたんでしょうね。「最初からトトロが出るのですか」と聞いてしまったのです。「じゃ、いつ出せばいいの」というやりとりがあって「真ん中へんじゃないですか、モナもそうでしたよ」と。それまでニコニコしてた宮崎さんの顔つきが変わりました。
みなさん、忘れてる方も多いと思いますが、実はトトロというのは「火垂るの墓」との2本同時公開でした。宮崎さんが「2本立てだからいいか」と言って紙に線を引いて「トトロ真ん中で登場」と書いたのです。映画監督というのは、興行的にも作品的にも世界に問われて大変なストレスだと思いますが、高畑さんとの2本立てだったので、違うことをやっていいかなと思ったんじゃないですか。トトロの登場までのストーリーを丁寧に描くんですね。お金を儲けないといけないというプレッシャーから逃れて作ったんでしょうね。「トトロを文芸作品にしたい」なんて言いだして、猫バスなんかも出すのやめると言うので弱りました。高畑さんに相談したら「宮崎さんの得意ワザなんだから出さなきゃダメだ」と言われ、それを宮崎さんに伝えたら「じゃ、出します」って。(会場笑) 宮崎さんにとって高畑さんは5才年上の業界の先輩ですからね。このトトロはスタジオジブリにとって、とても大切な作品になっています。いろんなものの売上が群を抜いています。いつも作品を作る時に予算内に収まったことがなくて、トトロのグッズの売上やTVの放映料でまかなっています。トトロ様々なんです。今日のジブリはトトロなしではありえない。宮崎さんという人は、普段とてもおもしろい人なんですが、作品を作る時はすごく神経質になります。とても不思議なんですが、その彼がこのトトロの時だけは最初から最後まで明るく楽しんで仕事していましたね。

●中島:いろんな作品を作ってる人はさぞ楽しんでやっていらっしゃると思っていましたが、かなり苦しんで作っていらっしゃるんですね。実はそのプレッシャーをはずしたトトロがジブリにとって大切な作品になっているという、不思議な力で物事が動いているのを実感できると思います。プロデューサーの鈴木さんと監督の宮崎さんの関係は、人間として、うらやましいくらいの関係ですね。僕もCMディレクターとしてプロデューサーとやっているのですが、こんな関係でやれたらどんなにいいだろうと思います。宮崎さんは日頃ストイックに作品を作っているんだけど「おもしろくなければいけない」「言うことがはっきりしてないといけない」「お金を儲けないといけない」そのお金を儲けるというプレッシャーをはずして作ったトトロが一番お金を儲けることになった。映画はビジネスなんですが、ジブリ美術館はNPOなんですね。お金を生むということじゃなく運営されています。スタジオジブリの成功の秘訣はここにありというようにしたかったんですけど、そうならないというのがエンターテイメントの不思議な部分で、そこがまた魅力を生んでいるんでしょうね。

●鈴木:旧ソ連時代に国家がお金を出して作ったものというのは、ある迫力を持っているのですが、商業主義で作られたモノとはちょっと違う。僕らは商業主義の中でアニメを作ってきましたが、違う形もあるんじゃないかと思っています。若い人の次の映画づくりにヒントが隠されているんじゃないかと。お金儲けを悪いことだとは思いませんが、お金を儲けたい人は映画なんかやっていても儲かりません。日本の不動産業の方がよほどいいはずです。映画は本来そういう金儲けとは違うところにあるような気がします。
 
(セミナーでの発言から一部を抜粋して掲載しています)
TOPeAT`03SeminarASeminarBSeminarCSeminarD03ゲスト一覧