TOP eAT`08'07`06`05`04`03`02`01`00`99`98`97
セミナーA
「世界に羽ばたくアニメ産業」

浜野保樹(東京大学大学院教授)
原 恵一(アニメーション監督)
細田 守(アニメーション監督)
TOPeAT`08 SeminarASeminarBSeminarC08ゲスト一覧
■SeminarA

浜野保樹教授








細田 守監督







 


原 恵一監督とプロデューサーの茂木さん

●浜野:原さんは「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」や「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」で高い評価を得ましたが、この「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」で原さんが本当につけたかったタイトルは「青空侍」だったんですね。今日のテーマでもあるんですが、お二人はずっと社員として監督をやってきましたので、何でも好きなようにするという訳にはいかないですよね。クレヨンしんちゃんには「雲黒斎の野望」とか「暗黒タマタマ大追跡」といった下ネタのタイトルがついていますが、原さんは本当は「戦国大合戦」を「青空侍」にしたかったということなんですね。
細田監督は「デジモン」や「時をかける少女」で大変有名になった人ですが、その他にも、アーティスト村上隆さんとのルイ・ヴィトンのプロモーション映像でのコラボレーションなど、2004年頃からのお二人の活躍は本当にすごいものがあります。
私もeATにお二人に出ていただいたことがきっかけで、「アニメーション監督 原 恵一」という本を書かせてもらいました。
2004年から2007年の間に原監督は「河童のクゥと夏休み」を、細田監督はちょっと前になりますが「時をかける少女」をつくられて2007年の文化庁メディア芸術祭の大賞に、原監督は今年のメディア芸術祭の大賞ですね。特に、細田さんは「時をかける少女」でほとんどの賞を取られたんじゃないですか?

●細田:ありがとうございます。アメリカのアカデミー賞はもらってませんが…。今度ぜひ取ってみたいと思います!

●浜野:「河童のクゥと夏休み」は今後いろんな発表があると思いますが、「時をかける少女」と同じくらい賞を取るんじゃないかと思っています。偶然なのですが「河童のクゥと夏休み」の角川オフィシャルガイドブックですが、細田さん、これ誰がつくっているのですか?

●細田:私の妻が角川で編集をやっておりまして、昨年、試写会を見た後で是非、本をつくりたいということで、原監督にインタビューし続けてつくったのがこの本です。

●原:取材中に細田さんの奥さんが、ずっと来てくれてたんですけど、角川の編集部の人に「原さん、細田さんより細田さんの奥さんに会っている時間、長いんじゃないの」って言われました。本当に、みっちり取材していただきました。

●細田:ウチは新婚なんですから、もっと気をつかってもらわないと(笑)。映画の素晴らしさをどう伝えるかというプレッシャーで彼女、体重が40kgを割っちゃって、本当に生命の危機を迎えるくらいのところまでいかないと、この映画の素晴らしさを伝えられないんじゃないかということですね。私が言うのも何ですが、本当に読みごたえのある本です。

●浜野:今日、しりあがりさんから与えられたテーマですが、まずアニメ産業って寿なんですかね?おふたりとも今はフリーになられましたが。

●細田:社名が東映動画から東映アニメーションに変わりましたが、ずっと東映アニメーションに14年間いました。

●浜野:原さんのいたシンエイ動画も東映動画の流れで、藤子不二雄さんのドラえもんとか、ヒット作をたくさんつくってきた老舗ですよね。

●原:20年いて、「河童のクゥと夏休み」をつくり終えて、辞めました。

●浜野:社員で監督していると、やっぱり自由につくれないでしょ?

●細田:子供向けにつくっているのは同じとしても、それでいいのかといったジレンマを抱えながらやっていました。

●原:僕も藤子不二雄先生の作品とか、クレヨンしんちゃんとか、長く子供向けの作品をつくってきたのですけど、やはり、まず子供に喜んでもらえる作品というよりも、自分がおもしろいと思える作品をつくりたいと思う方が強くて、でもやはり、勝手なことはできないんですよね。ですから、子供向けのフリをして大人向けのものをつくってしまうというゲリラ的なことをずっとやってきました。

●浜野:お二人は、こんなものやりたいとか会社に対して言ったりしたんですか?

●原:全然そんなこと言ってこなかったですね。「河童のクゥと夏休み」が唯一、自分でやりたかった作品ですから。自分が演出するようになってからは、ほとんどすべての時間を「河童のクゥと夏休み」をつくることだけ考えてやってきました。それでなんとか、映画作品ができたんですが、それは僕が社員監督だからできたと思ってるんですけど。普通フリーだったら、こんな長い間、一つの企画を考えてられないですからね。

●細田:企画を練ってる間が10年で、現場に入ってから5年、合わせて15年ですからね。

●原:僕は小さい子供向けにだけじゃない、広い年齢層に見てもらえる作品にしたかったんです。が、会社としたら別にそんなことは求めていないわけです。

●浜野:細田さんはやりたいものを会社に出し続けるというような経験は。

●細田:一時の東映アニメーションには、そういう雰囲気があったんですけど、版権ビジネスがもうかると、関心はそっちの方にいってしまって、提案できるような雰囲気が次第になくなっていきました。

●浜野:アニメーション産業というのは、産業としては寿なんですか?

●細田:最近はDVDが売れなくなったと言われています。いまはネットでみたりできるということになって、作品を生み出すメーカーにお金が返ってこなくなったというのはあります。
業界としては、ずっと年間の制作本数が減らずに、とにかく仕事があったんですけれど、今年あたりは本数が落ち着くんじゃないかと言われていますね。インターネット上の様々な情報によって、アニメーションのいろんなおもしろ味に、多くの人がふれるようになったというのはあるんですけど、一方で現場からお金を奪っているという事実はあります。

●原:バブル崩壊ってアニメ業界には全然影響なかったんです。そんな独自の経済がある業界で、当時、みんなバブル崩壊で大騒ぎしてるけど、俺たち何にも影響ないよねって思ってましたよね。

●細田:バブル崩壊直後に東映にはセーラームーンバブルがやってきて、みんなすごく潤ったんです。1992年から3年ですよ。東映なんかビル建てちゃいましたから。

●原:そういう意味では僕のいたシンエイ動画もずっと寿な会社なんです。必ずヒット作が1本か2本あって、子供向けの作品をつくっているからかもしれませんが、TVシリーズが、劇場化されたりすると、それなりの数のお客様がみてくれますから。僕なんかも、もっとお金欲しいなんて思ったことないですよね。結構もらっていましたから。レベルはちょっと違うかもしれないですけど、僕はそんなにお金使わないんで。生きていくためには充分なお金もらってました。(爆笑)

●浜野:何年も同じセーター着てるし!

●原:そうそう、皆さん、ものを大事にしましょう。(会場爆笑)

●浜野:お二人のいた会社っていうのは「ドラゴンボール」や「セーラームーン」っていう世界的にヒットした作品や「しんちゃん」「ドラえもん」というロングヒットをずっとやってるんでしょう。アニメーション業界って倒産したって話聞かないよね。
これまで、日本のアニメーション産業は、マンガを原作にしてきたので、マンガ業界の一制作部門みたいな位置づけでしたけど、最近マンガを原作に「オールウェイズ」や「海猿」みたいな実写の作品が、ヒットの上位に出てるようになってきましたけど。

●細田:僕がつくった「時をかける少女」はその逆で、実写だったものをアニメーションに変えたんですけど。狙ったのは、いまCGがどんどん発達して実写でもこれまで不可能だったことができるようになったからです。アニメーションが今まで通りのままでいいのかということに、あえて挑戦してみようというのが、ひとつのもくろみであったんですけど。

●浜野:ちょっとカッコよすぎるんじゃない。

●細田:ちょっと後づけっぽいんですけど。マンガ原作だとどうしてもクリエーティビティがマンガ原作そのもののおもしろさにあるわけですよね。アニメの表現ってまだまだやり尽くされてないと思うんです。いま巷にあふれているのは、子供向けや萌え系だったりがほとんどですが、もっとそれ以外のところにも描くべきものがあるはずですよね。まだまだアニメーション表現で描くものには手がつけられていないものが多いと思います。アニメがジブリ系か萌え系しかないわけじゃないんです。原さんが「河童のクゥと夏休み」をつくられたのも、そういう価値感ですよね。

●原:以前何かの対談で、細田さんが「一般性」という表現を使ったんですけど、そういう一般性を持ったアニメをつくる人が本当にいないんですよ。幅広い年齢層が支持するアニメってジブリがつくるものだけなんですよね。ここ10数年は。
僕なんかは、ここに人があんまりいないような気がしたんで、ここに行けば楽かなという思いがしたんですけど。ライバルがいないかなと。ところが、実は細田さんという巨大な存在がいたりして・・・ちょっと邪魔な感じがするんですけど。(会場爆笑)

●細田:ヤバイぞーみたいな。

●原:来るなよー、こっちへって!

●浜野:お二人はアニメーション表現の革新者だと思うんです。ところが、お二人の作風は明確に違いますよね。対照的な手法で。細田さんはデジモンなんかで全く新しい表現を生み出して来られたし、原さんは、過去の日本映画のいいところをアニメーションの中で生かしていくという。やってる試みは同じなんですけど、意識が原さんは継承者で、細田さんが革新者といいますか。

●原:さっきは冗談で言ったんですけど、僕も細田さんと似たようなものをつくっている気はしないんですよ。

●細田:そうですね。同じ日常と言っても全然違う感じはありますね。そういう意味で僕は原さんの映画が楽しみだし、すごく刺激になるんですけど。

●浜野:お互いに誉めあってもしょうがないんですけど。
「世界に羽ばたく」という意味でアニメ産業はどうなんでしょうか。日本のアニメーションのリテラシーというのは、アメリカにはまだ及んでいないなという気はします。

●原:昔から日本のアニメに親しんでいるというのもあるんでしょうけど「ジャパニメーション」とかいう言葉があったりしますけど、僕はこの言葉は大嫌いなんです。こういうものをつくったら海外で受けるみたいなことを狙ってつくる作品は、逆に受けないと思うんです。むしろ普通に日本の人にみせるようにまじめに作ったものが、世界の人にも見てもらえるものになるんじゃないかと思うんです。出発時点で、日本のアニメ技術をいかして、世界の人に見せるものをつくるという目的でつくりはじめたものは、たぶん作品に何かが入らない気がするんですよね。何ものかが・・・
映画の歴史を見ても、日本の巨匠たちがつくった作品というのは、日本では先に忘れられるけど、むしろ海外の映画作家たちがそれを再発見して、この映画が素晴らしいということで、黒澤、小津、溝口・・・それがまた、日本に来て改めて日本人が再発見しているじゃないですか。小津安二郎の映画なんて、絶対、日本以外じゃわからないと思うじゃないですか。でも、作品に力があるから海外の人が見てもおもしろいと思うんでしょうね。

(文責:編集部)

TOPeAT`08 SeminarASeminarBSeminarC08ゲスト一覧