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セミナーB
「それぞれの経済、漫画ブームの天国と地獄」

しりあがり寿(漫画家)
手塚能理子(株式会社青林工藝舎、元ガロ編集長) 
中村公彦(コミティア代表)
萩野正昭(株式会社ボイジャー代表取締役)
横里 隆(ダ・ヴィンチ編集長)
TOPeAT`08 SeminarASeminarBSeminarC08ゲスト一覧
■SeminarB



しりあがり寿さん 



横里さん 

 




























 





左から萩野さん、中村さん









手塚さん 



●しりあがり:皆さん、お気づきのようにこのセミナーBは、マンガをテーマにしているのにマンガ家はひとりもいません。今回、何をやろうかいろいろ考えたんですが、最近のマンガを皆さんに知ってもらうのには、作品そのものよりもメディアの変化の方がおもしろいんじゃないかと思いました。学生にアンケートをとって「好きなマンガは何ですか?」と尋ねると、あんまり変わらないんですよね。美大生とかにも昔からベストとして選ばれているものは。もちろん日々新しいものが出てきているんですけど、目に見えるような変化が起きているわけじゃなくて、それよりもマンガを本で読むかケータイで読むかとか、送り手の変化の方がおもしろいんじゃないかと思いまして。今日は送り手側のものすごい人たちに集まっていただきました。

●横里:ダ・ヴィンチの創刊の頃から編集に関わってまして、マンガが好きなので担当もやってまして、「テレプシコーラ」という山岸涼子さんのクラシックバレエのマンガが手塚賞をいただきました。ダ・ヴィンチはマンガだけじゃなくて文芸も扱っていますが、2007年におけるエポックメーキングをご紹介します。

数字を出しました。
1/2
1+2+3=350万

これは携帯小説の活況を示す数字で、昨年の文芸作品ベスト10の中の半分が携帯小説でした。上位1、2、3位を携帯小説が独占していて、それを足すと350万部という販売部数です。1位の「恋空」で200万部、2位は「赤い糸」、3位は「恋空」の続編で「君空」、5位と7位にも入っています。
僕は携帯小説とマンガというのは、よく似ているんじゃないかと思っておりまして、ひとつ目は「書き手」と「受け手」の年齢が近いということ。10代の書き手が自分の恋愛体験をブログのように書きとめたが携帯小説で、それを読む読者も10代ということです。かつて少女マンガブームで10代の作家が誕生した時と同じような現象だと思います。一回当たると同年代の読者に一気に広がるので、先程のようなミリオンセラーにつながるのだと思います。
2つ目が、簡略化されデフォルメされて、スピーディーに展開されるということです。携帯小説はあまり状況描写が書かれません。
3つ目は横書きじゃないと女の子たちは読めないらしいですね。携帯小説ファンの子に取材すると、縦書きの小説なんて読めないというんです。これも新しいコミュニケーションの手段なんだなと感じました。マンガも絵とネームの組み合わせで読ませていくという新しい文法だったと思うんですけど、横書きの携帯小説の世界は中身がないなんていわれています。僕が読んでも確かにつらいなと思うことが多いんですけど、こうした中から新しい表現が生まれてくる可能性もマンガと同じようにあるんじゃないかなと思います。
次にエポックデータ2です。

1+2+3+4+5=50万

もう一つ、昨年の文芸界のブームに古典新訳ブームというのがありました。光文社さんのドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」が1〜5巻までで50万部も売れたんです。調べてみると、20代の人も結構読んでいて、なぜかといろいろ調べていくと、「新作が多すぎて何を読んでいいのかわからない」「読みやすくなったし、一回読んでみよう」といったところではないかと思います。
こうした2つの現象は、一見矛盾しているようにみえるんですけど、決してそうではなくて、たくさんのコンテンツの中からおもしろいものを自分で見つける力が弱くなっているんじゃないかと思います。

●萩野:ガニゲ産業ということで私がお話できるのは、「ガ」と「ニ」で「ゲ」はさすがに手が出せないんじゃないかと思ってます。今日の午前のセッションで細田さんが東映アニメーションのお話をされていましたけれども、私も東映出身なんです。東映動画(アニメーション)が極北だとすると私がいた教育映画部は悲惨(ミゼラブル)な職場だったんですが、そういう職場で学んだことから「ガ」と「ニ」に関わってお話させていただきます。
私がめざしてきたのは、映画と本を一緒にできないかということだったんですね。これを出版の未来のテーマとして位置づけてやってきたんです。映画と読書の違いがどこにあるか、これを見る方の動力源で考えてみまして、本であれば誰がページをめくっているかということでしょうし、映画であれば誰がコマを送っているかということです。
映画の場合は、監督とかプロデューサーということですし、今日のお話だともっと背後にある大きな組織?がアクセルを踏んでるって話だったようですが。本の場合は、動力源が、自分の手の内にあるということです。
この「ファーブルの世界」は私がパイオニアのレザーディスク事業をやることになって、ごり押ししてつくったレザーディスクです。案の定、まったく売れませんでした。私の人生にはこういうものが常についてまわるんですが。レザーディスクならではのものをつくれといわれたんで、レザーディスクにしかない機能を使ったソフトを機能を盛り込んでつくれといわれたんですが、今となっては誰も私の作品を見れないわけですね。レザーディスクの歴史は、閉じられてしまいましたから。一コマ一コマ送ったりできて、5万ページも収録できるとか、レザーディスクならではのものということだったので、レザーディスク以外のどのメディアにもコンテンツを持っていけないわけです。(笑)
もうひとつ、これは最新のi Podですよね。このホイールを回すと絵が動く。この機能を使って先程のファーブルの世界をのせてみました。次に、これは大手の出版社がマンガを電子出版していまして、ケータイにのせて見えるようにしています。まさしくいま寿の産業の部分ですよね。先程のものは寿以前の部分なんですけど。
ボイジャーのスローガンは「世の中の液晶デバイスがついているものには、でるようにするんだ」ということにしています。実はこうしたデバイスに、何とかして縦書きを実現しようとして今まで必死にやってきたんですが、先程のお話で横書きじゃないとダメだということなんで・・・この期に及んでなんなんだよー!ということですが。縦書きじゃないとダメなんだよっていうのは、やはり古い体質の人間なわけで、そこは柔軟に考えていけばいいんじゃないかということで、まぁひとつの体験としてお話させていただきました。

●中村:コミティアという同人即売会をやっています。萩野さんのお話とは正反対にアナログの方の世界の話になりますが、東京ビッグサイトを会場にイベントを行っています。同人誌という言葉は昔からある辞書にも載っている言葉なんですけど、いまは意味合いが変わってきてまして、33年前にコミックマートという同人誌を専門に販売するイベントが生まれた時から、それ以前とはガラリと意味が変わってしまいました。会場にお越しの方でコミックマーケットをご存じの方いらっしゃいますか?かなりいらっしゃいますね。金沢にも「KAC」という団体があって月2回くらいやっているらしいですよ。
昔は同人というグループの中で回覧誌であるとか、それこそ昔の手塚治虫さんや藤子不二雄さんが肉筆のものをとじて仲間内でまわすものもありましたが、コミックマーケットが生まれたことから、外に向けて売るようになりました。
基本的にイベントの運営はすべてボランティアで行われています。即売会というのは、来場者はすごいんですが、売れる人は売れますが、それこそスペース何千円か払って○冊しか売れませんでしたというケースもあるんですけど。最近は、出版社が持ち込みを受け付けるという企画があったり、こうした中から出てくる作家が生まれたりしています。5月のイベントでは西原先生の原画展を開かせていただくことになっていまして、先月eATプロデューサー塾で「しりあがり寿さんと西原理恵さんの画力対決」がありましたが、その記録映像を会場で流させていただいたりしています。

●手塚:マンガの編集の仕事を20数年続けてやっているんですが、ずっとマイナーの仕事しかやったことがないので、今日のゲストの皆さんとはかなり違う立場からお話をさせていただきます。皆さんには、コミックのアンダーグラウンドの代表みたいに紹介していただくんですが、あまり知られていないし、売れていないというのが現状でありまして。あまり知られていない、そういう世界もあるんだと、つぶれずに脈々と続いているのかというのをお話させていただくことになると思います。
携帯マンガの人気もすごくて、よくお話はいただくんですけど、作家も編集部も慣れてなくて、アックスとかガロに出すわけじゃなくて、社会のタブーとか、いってはいけない表現はダメですよと事前にお話しても、実際にあがってきた4コママンガが5人が5人全部、とてもネットに公開できない表現になっていまして、やりたくないのか、やれないのか、人の話を聞いていないのか。結局こちらからお断りすることになった次第です。
過去に一度だけ、掲載したマンガに手塚賞がいただけるかもしれないというビッグチャンスが訪れてきましたが、本人が手塚さんには何の影響も受けてないので、賞は辞退してしまうことがあったり・・・
ものすごく説得したのですが。この機会に一気に雑誌のイメージを売って、拡販につなげたかったんですけど。それぞれポリシーもありますし、価値観も違うわけですから。みんな本当にいい人たちなんですけど、世界からみたらちょっと変わっている。描き手と送り手が一緒になって仕事をしている場所を、あまりにも楽しくて延々と続けているんですけれども。
「マンガブームの天国と地獄」というタイトルがついていますけど、ウチの場合は地獄というもんじゃなくて、底を突き破ってどこを漂っているのかわからないくらいです。ただ天国の部分もありまして、好きな仕事を頑固に続けられるというのは天国なので、お金のことは仕方ないと、できれば死ぬまで続けたいなと思っています。
私だけ古いタイプの機械でお見せしますけど、最初に言っておきますが、人によっては気分の悪くなる方もいらっしゃると思いますので、気を付けてください。心臓の弱い方は、チラチラ目隠ししてご覧ください。これは、ガロの創刊当時のもので、まだ白土三平さんのカムイ伝は始まっていませんが、短編が載っています。創刊号の表紙がいきなり血しぶきに腕がとれてるっていうのもどうかと思いますが。(爆笑)
これから始まって、林静一さんとかいろんな方がデビューしていきました。10年前に私たちが出したのがアックスという本です。これも創刊号かなというくらいの表紙ですが、アックスがオノなので、イメージとしてしりあがのさんが描いてくださったんですけど。創刊の最初が手塚賞の候補になった刑務所の中をテーマにしたマンガで、刑務所からたくさんご注文をいただきました。中の描写が本当に描けているらしくて。私も入ったことないのでわからないんですが。

●しりあがり:手塚賞をその方が辞退されて、繰り上げ当選したのが僕なんです。手塚さんにお聞きしたいのですが、同人誌もつくれない、引き受け手のない作家を引き受けて出版するという熱意は何なのでしょうか?

●手塚:最後の砦というか、マイナーのいいところは時間を徹底的に使えますので。メジャーな世界は、それはそれで厳しくて、シビアにやっていかないと切り捨てられてしまうという世界なんですけども。私どもの場合は、原稿を見て、これは――と思う人は10年は面倒見ると思うんです。10年の間に早い人は3年目くらいで単行本になりますけど、なかなか反響が普通の雑誌みたいにいかないので、それと地道に集めてやっています。似た人は似たような所に集まるというのは本当だなと思っていて、リスクは背負っても、描き手もリスクを背負うわけですから、場所は提供したいというのはありますね。

●横里:いま日本のコミック業界の規模は2兆1530億円です。アメリカが2兆8千億円くらいですから頑張っているんじゃないでしょうか。アニメを含めたコミックの規模が14兆円くらいなので、紙メディアが2兆1530億円ということです。

●しりあがり:マンガの世界もメディアがいろいろ様変わりして、いろんな競争になっていくと思うんですけど、送り手と作り手がこれまで以上にタッグを組んでやってかないといけないと思いました。皆さんには、こういうメディアでこんなマンガを送りたいとかいうのも聞いてみたかったんですけども、それはまた夜塾でお願いします。

(文責:編集部)



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