TOPeAT`04eAT`03eAT`02eAT`01eAT`00eAT`99eAT`98eAT`97
セミナーD
Media 「電子メディアは何を伝えるか?」

小林弘人(「WIRED」編集長)
服部 桂(「DOORS」編集委員)
宮崎光弘(「AXIS」アートディレクター)
吉田秀道(「アイデア」編集長)

TOPeAT`97 SeminarASeminarBSeminarCSeminarDSeminarESeminarFSeminarGSeminarH97ゲスト一覧

■SeminarD

吉田秀道氏

●服部: 今日は、朝一番目のセッションとして、デジタルとパブリッシングの関係ということでお話しさせていただきます。書店にはたくさんの書籍が並んでいますが、80年代から90年代にかけて、DTPからWebにまで出版の背後にあるものが大きく変わってきました。出版の意味づけ、あり用が変化してきているのではないかと思います。まず、私を含めて4人のパネリストの方に、それぞれの雑誌について紹介していただきたいと思います。

●吉田: 私が携わっているのは、デザインをコアにした雑誌ですが、今日は私たちのDTPとのかかわり、ビジュアルとデジタルとの関連、それから、アイデアはなぜ変わったのかの3つについてお話しさせていただきます。 アイデアは、創刊から45年を誇る雑誌で「モダンデザイン」を紹介してきたんですが、3年くらい前からDTPの環境が整ってきて、いろんなメディアでのデザインということで、ビジュアルが集まるようになってきました。フロッピーディスクやサイクエストのリムーバル、あるいはCD-ROMでの雑誌制作の試みなどです。実際に、3年前から写 真のクオリティの問題で、ポジのものはそのままでよいのですが、データ化されてきたものは、それに応じた形の出力で印刷した方がいいということになりました。現在のアイデアのDTP化率ですが、はっきり言って、まだフルDTPではありません。版下レベルで、テキストを含めて100%、フィルムで20%くらい、海外作家の出版に関して、インターネットで画像を送ってもらうとかしています。 デジタルになったら、むしろ、どこに何を定着させてもいいと思っています。私たちのかかわる、ビジュアルの世界でも、例えば、ロンドンはとてもおもしろい環境にあります。ここ3年くらい前から、若いデザイナーとビッグカンパニー、ナイキ等が直接結びついて、話題をつくっています。彼らは、インディペンデント系というか、独自の力でやっていこうということが大企業と結びついて魅力的な作品を生み出す時の道具になっているのです。 最後に、アイデアは何で変わったのかということですが、環境の問題が大きいと思います。グーテンベルクの時代から、1920年代以降のアバンギャルドを経て、今もっと表現が身近になってきたということなのではないでしょうか。その気になれば、数十万円の出力機でA2サイズのポスターを自分でつくることができる時代なのです。そして、アナーキイズムが結びついて、おもしろいものができる時代となったということです。


宮崎光弘氏(中央)

●宮崎: ここにいるパネラーで私だけがアートディレクターという肩書で、エディトリアルデザインににかかわっています。AXISは、1981年から始まったプロジェクトです。東京の六本木にあるデザインセンターのような商業施設です。そのコンセプトは、Living with Design「デザインで生活を豊かにする」という意味です。今でこそデザインは、一般 用語として定着していますが、当時はまだ生活とのかかわりは意識されていなかったと思います。ファインアートのギャラリーはあっても、デザインのギャラリーはなかったのです。そうした生活に向けてのプレゼンテーションとプロに向けての情報発信を、ビルの設立と同時に雑誌を創刊しました。ジャンルも多岐にわたっています。建築からインダストリアルデザイン、ファッションからインテリアなど、幅広くデザインをそろえています。 マッキントッシュの登場以降、DTPだけでなく、建築などを含めた広い分野でコンピュータが使われるようになりました。私たちもいろんなジャンルのコンピュータ活用を取材するうちに、自分たちでもやってみようかという話になり、AXISは1986年頃から、DTPに取り組んできました。もともとバイリンガルでつくっていたので、英文の編集に便利で必要に迫られたからです。

私自身が最初にDTPにかかわった時に感じたことは、次の4つに分けられます。
1.セルフハンドリング
これまでのように外部に頼まなくても、かなりの部分を自分たちでつくることができる。(クオリティを自分たちでコントロールできる)
2.スピードアップ
工程そのものを短縮できるのではないか。
3.コストダウン
外注部分の費用が削れる。 制作プロセスの中で、データの二次利用が可能だろう。
4.ネットワーク
複数の人たちが仕事をしはじめて、それが社内から社外の人にひろがっていく。
現在アクシスは、こうしたDTPの状況に加え、もう一つの大きな仕事としてWebデザインを手掛けています。


小林弘人氏

●小林:今、服部さんに雑誌の紹介をいただきました。確かに雑誌の姿勢はデジタルですが、やってる人間はアナログです(笑)。WIREDは、アメリカで1993年の1月に創刊された雑誌です。ちょうどアメリカでのインターネットの商業利用が始まり、全米情報基盤構想をアルバート・ゴア副大統領が提唱した時期です。 これから、インターネットやデジタルテクノロジーは、デジタルカルチャーあるいはデジタルが、文化に対して、社会に対して、どういう影響を及ぼしていくか、我々をどこに運んでいくのかという視点を、ジャーナリスティックにとらえていこうとしています。技術的にはDTP、それとネットワークの二つがなければ成立しなかったメディアです。通 常では、出版社をたちあげるというのは、大変なイニシャルコストがかかりますし、ランニングに関しても潤沢な資金が必要ですが、当初、WIRED USAは、ガレージカンパニーでスタートしました。たった3年で12人から300人くらいまでに急成長していきました。その背景には、オンラインメディアとしてのパブリッシングがあるのではないかと思います。これは、アメリカオンラインという全米で大手のBBSなんですが、そこに、最初はワイアードは紙媒体で出版していたのですが、ワイアードオンラインという形でバックナンバーを読めるコンテンツを提供しはじめ、これが拡張し、ホットワイアードという雑誌とは全く切り離した形で、ホットワイアードの編集長、スタッフによるサービスを始めたわけです。ホットワイアードは、さらにネットワーク上での検索サービスをやっています。キーワードで検索するようなサービスを、現在はワイヤードディスクトップといいまして、ポイントキャストやカスタネット社のマリンバ、あるいはバックウェブを使ったプッシュメディアと同じものですが、本格的なサービスは今年の春頃からはじめます。これがアメリカの動向です。 日本版の方については、アメリカと日本は環境も違いますから、知的財産についてや電子マネーあるいは暗号政策に関するセキュリティの問題を提議させていただいています。 福祉の問題などについても、建物がバリアフリーでも、そこに行きつくルートがバリアフリーでなかったりしますから、どういうルートがバリアフリーになるのかというマップをオンラインにのせたりするといった動向などをとり上げたり、コンピュータリテラシーが従来の読み、書き、そろばんをどのように変えつつあるか、コンピュータは、教育に対して、どういう影響を与えるのかといった問題や、NTTの分割問題などを特集しました。つい先日、東京が首都機能を移転することが可決されたのですが、東京都民でもあまり知っている人がいない(笑)。首都機能が移転するとなるとデジタルとは関係ないんじゃないか言われる方もいらっしゃると思いますが、確かにデジタルだからどうという文脈ではなくなってきていますが、好むと好まないとにかかわらず、デジタル技術は関与しているわけですから。確かに創刊当初は、マルチメディアブームが日本にも来ていましたし、デジタルという面 がクローズアップされたのですが、もうそんな時代ではないし、すでに全般的に、もうデジタルに特化させた話じゃなくてもよいのではないかと思ってます。今日本は、電子マネーの問題とか交通 システムがリデザインされようとしていますが、こうした点などについても迫ってきています。 次にプロダクションに関して、デジタル技術が製作という面で私たちに関与しうるのですが、つくり手としてはDTPに関しては6色の特色印刷です。漫然と紙メディアをつくっているのではなくて、自分たちがどう変えていくかということにもチャレンジしていくメディアとして取り組んでいます。WIREDは、表紙の写 真に関しても、データで製作しています。編集の部分でもプロセスにネットワークが多用されています。海外のジャーナリストとの連絡にも活用されています。先ほど宮崎さんがおっしゃったスピード化とコストダウンとクオリティコントロールを徹底させ、セルフハンドリングの部分は見逃せません。アメリカでは、C.A.J(コンピュータ・エイデット・ジャーナリズム)もしくはC.A.W(コンピュータ・エイデット・ライティング)。ジャーナリストに対してコンピュータがどのようなツールとして使われているかといったことを体系的に教えているところもありますが、日本ではまだ遅れています。こうした部分にも、私たちは本格的に取り組みたいと思っています。 しかし、最もデジタルテクノロジーの恩恵があるのは、編集の作業部分で、デザイナーにとっても確かにはかりしれないものがありますが、その分デザイナーの領域が拡張されていますから、今までは知らなくてよかった製版技術の部分などでもデザイナーが覚えないといけない部分になりました。そういう意味では、従来の分業制が白紙になって、ひとりひとりのやらなければいけない部分が拡張され、おさえておかなければならないスキルが非常に多くなってきました。デザイナーにとって、覚えなければならないことが非常に多くなってきたと思います。大きな目で見れば、効率化につながっているのではないかと思います。私たちの場合は、アメリカのワイアードのライセンスの関係で、インターネットは読者とのコミュニケーションのためのサブメディアとしてとらえています。


服部 桂氏
服部: 朝日新聞の場合は、企業の体質がまだアナログなので、記者にワープロを与えたりすると「鉛筆で書くから、こういう難しいものを使わせないでください」と怒るわけです。雑誌「ドアーズ」の刊行で、インターネットとデジタルテクノロジーをカバーしようとしたわけですが、いろいろと紆余曲折があって、今日のようなスタイルになりました。デジタルがこれまでのように普及して、電車の車内の会話にもメモリやハードディスクなどといったパソコン用語が飛び交うようになると、我々の生活の中でこうしたものを理解するまで、新聞では正確に伝えるメディアになりえないかもしれないということもあって、朝日新聞の出版局でも、こうしたニーズに対するメディアをつくりたいという欲求があり、2年前からプランニングを始めました。ただ「DOORS」は、デジタル化をうたいながらも、今回の4誌の中ではDTP化率が低いと思います。ただどういうわけか、CD-ROMが唯一付いていまして、しかも雑誌の表紙には、URLが表示してあり一番DTP化率が高いように振る舞っています(笑)。 DOORSは、1995年の3月にオープンドアーズというWebのページを立ち上げました。実際のワークでいうと、ベテランのデザイナーは慣れないコンピュータよりも、手でやった方が速いということもあって、スピードアップどころかスピードダウンになってしまうこともあります。逆に、自分がいろんなことがあって、完全な形のDTPには踏み切れないでいます。ただ、こうした流れは止めようがないと思います。昨日のマイケル・バックス氏の話にもあったように、将来的には制作から流通 までがデジタル化されるようになるでしょう。ドアーズは、3Dメディアを標榜していて、雑誌「DOORS」、ホームページの「OPEN DOORS」、CD-ROMの「COOL DOORS」といったように、各媒体を使い分けています。ただ、デジタル化に関しては、マイナスの点もあると思いますが、小林さん、いかがですか。
 
●小林:今までは、編集部はチェック機能があったわけですが、これからは本来、編集者がやるべきこと、記者がやるべきことをきちっとやることが、ますます大切になってくると思います。DTP化は、単に従来よりも効率があがって時間が余るようになるだけでは、何らメリットを生むものではないと思います。デザインよりも編集の方で、よりデジタル化のメリットがあると思うのですが、電子メールによる取材などでもあくまでも本人に会うことが基本です。やはり、電子メールは取材後のフォローで使われるべきものであって、我々ジャーナリズムの視点というのは、これまでと変わるものではないと思っております。ただ、ツール(道具)が変わっただけであると認識しています。
宮崎:確かに制作の部分では、本当に効率化に結びついているのかというのは、どの部分にフォーカスをあてるかによって違ってくると思います。いくらモニターで見ていても、最終的に、つくるものは紙になってくるわけですから、最終アウトプットに対してデザイナーはどこまで責任を持てるか、逆にWebのデザインでは、モニターに表現する上で、どこまでデザイナーが責任を持てるかということが、これからの問題なのではないでしょうか。
吉田:今、宮崎さんがおっしゃったことと同じことかもしれませんが、一つはアプリケーションの問題、その限界というのがあると思います。どうしても、似かよったものが多くなってしまうわけですね。コンピュータでしやすいものに引っ張られてしまうといった問題があります。DTPは、今までの秩序でできあがってたものを崩してしまうというところ、何でもできてしまうというところがあるので、逆にそうしたシステムを考えていかなければいけないと思っています。
 
●服部:今、インターネットを中心とするような、デザインがDTPとは違ったものを要求してくるようになると思いますが。

●吉田:クリエイターがWebにかかわることが多くなってきたので、デザインが紙にとらわれるのではなくて、思考法だということを再認識されるようになってきたと思います。メディアの特性に対して、デザインが何ができるのかということを、原点から考えさせてくれるようになったと思います。

●宮崎:アウトプットに対する責任ということになると思うのですが、AXISでは昨年「プログラムを操るデザイナーたち」という特集をやったことがあるのですが、オーディエンスがどういう体験をするのかという部分までをデザインするという、インタラクションデザインについての問題提起だと思うのですが、これは従来の考えからいうと、デザイナーの領域を踏み越えた分だと思います。今までの考えだと、創り手からは難しい問題だと思いますが、テクノロジーが現状をどんどん変えていくと思っています。

●小林:雑誌というのは、非常にリニアなものです。直線的なものですから二次的思考でいいわけですが、Webというのは、言い換えれば、ホテルの中でさまざまな部屋を見せて楽しんでもらうといったことですね。今の時代は、何でも選べる時代なので、逆にURLを公開しないこと、HP(ホームページ)を持たないというのも選択肢の一つだと思います。
服部:今は、大変な変革の中にあるので、逆にさまざまな雑誌やメディアが存在を問われる時代です。これからの社会がどうなるのかはわからないわけですが、今はまだ、オン・ゴーイングの時代です。ここにいらっしゃった方も、おそらくいろんな形で関与されていて、「そこはこう思う」「そこは違う」と思う箇所もあったでしょうが、時間がまいりましたので、疑問と可能性を残しながらここまでにさせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
 
(セミナーでの発言から一部を抜粋して掲載しています)
TOP>eAT`97 SeminarASeminarBSeminarCSeminarDSeminarESeminarFSeminarGSeminarH97ゲスト一覧