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セミナーH
Programming & Art「デジタルアートとデザインの原理」

前田ジョン(MITメディアラボ助教授)

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■SeminarH

前田ジョン氏

●前田:私はこれまでコンピュータを基に、表現といった哲学的(精神的)なことを考えてきました。そして、私が今まで作ってきたものは、現状を示すことができるシンプル なモデルを提示するとともに、今後の方向性を提示できるモデルを作るよう心がけて きました。今日は表現に関してのコンセプトについて、まずお話したいと思います。

コンピュータで表現するのはどういうことなのか考えてみたい。私はデザインにつ いて、4つのコンセプトを考えてみました。
まず、コンセプトの1番目の要素はメディアですが、メディアというのは自分の頭 で描いていることを具現化するものです。 2番目は、ツールなんですが、これは手で も絵の具のブラシでもいいんですが、自分のコンセプト、メディアを形作るものです 。 3番目、スキルつまり技法の部分です。スキルは経験からなるもので、いかにこの メディア、ツールを使えるかということがもとになります。4番目の要素はコンセプ トですが、これは何かを作りたいと感じる部分だと思います。

このモデルを自分の前 に置いてみると明らかになってくることがいくつかあります。だいたいコンピュータ を使ってデザインしようとする人は、まず第一にコンセプトを考えると思います。  今度はエンジニアの立場になってみますと、エンジニアの人たちは時間がたくさん ありますのでだいたいシェアウエア、フリーソフトウエアといった小さなプログラム を作っています。彼らはとても興味深い作品を作っていくんですが、難点はそれらが あまり洗練されていないということです。彼らは作ろうと思えば何でもつくれるんで すが、なにを作ったらいいのかがあまり明確ではありません。 つまりアーティストやデザイナーとエンジニアを対比してみると、一方はアイデア を持っているけど実現する方法を持っていなくて、もう一方は実現するスキルは持っ ていても何を作ったらいいかわからないといった、2つの立場があります。

最近こういった現象を受けて、最もうまくいくやりかたは、デザインチームとコン ピュータチームを一緒にして作業してみることではないかと気づいてきました。実際 、コンピュータゲームやインターフェイスデザインに、こういったモデルが効果 的に 使われるようになってきました。エンジニアリングの立場では間違いを犯すというこ とはあってはならない。一方、デザインの立場だと、ときどきふとしたことでその間 違いというのが逆に大きな発見につながるということがあります。ただ、この相反す る2つの立場を同時にやるということは難しいと思います。
そこで要求される思考のタイプは、完璧なんだけどときどきなぜか壊れる、それで 壊れたものをまた元に戻すといった柔軟性を持ったマインドでなければ難しい。私は こういったスタイルの創造を教育的な場面で教えていきたいと思っています。

2年前、私は先ほどの4つの点を通じた表現の在り方を、伝統的な芸術大学で教え てみようとしました。現在は、これとは逆でエンジニアリングの教育機関で、先ほど の4つの点を通じた表現の在り方を教えています。この2つの立場を経験した様子を 、今日のプレゼンテーションでお目にかけたいと思います。どちらのアプローチがい いか、みていただきたいと思います。

この多摩美大のクラスは、3年生でコンピュータプログラミングを学びたい学生を 対象としています。多くの芸術機関あるいはデザイン学校で常に試みられているのは 、コンピュータサイエンスをなんとかデザインあるいは芸術に取り入れようというこ とです。しかし、このアプローチはうまくいかなかったようです。 第一の問題点は、 まずプログラム言語、例えばC言語が数学専攻でない人たちが学ぶには適していない ということです。次に私が最近気づいたことは、生徒たちはプロミラミング言語を学 ぶ必要性を感じていないということです。そして、私がこのクラスでやってみたかっ たのは、プロミラミング言語やテキストを使って記述する、別の新しい教え方です。 このために、さまざまな実験をしてみました。

この画面でもわかるように、実験では4人の人が立っていますが、この4人はペン の役割をしています。そして手前の人は絵を描こうとしています。彼女は自分の手を 動かさずに口で指示しなければなりません。実際コンピュータ上でデザインするのは 自分の手ではなくて、コマンドでデザインするのです。これから、絵を描いている様 子をお見せします。 今笑いが起きたのは、座っている人が「右の真ん中から真ん中まで線を書きなさい 。」と言うつもりだったのに、正確でなかったので自分が思っている以上に線を書い てしまったからです。座っていた人は、ちょうど真ん中から真ん中までと思っていた のですが、少しも真ん中でなかったというわけです。ここで生徒は、最初は非常にあ いまいな描き方をしているのですが、やっていくうちにいかに正確に言葉で伝えるかという練習になったようです。ここでわかった興味深い点は、一度ひとつの線を 引かれるとそれに対して次の指示が出せる。例えば「2つの線が、交差しているとこ ろから始めなさい。」という相対的な指示ができるようになりました。一般 に、絵を 描くときは、まずスケッチから始めて、そのスケッチの上をだんだん洗練していくと いうことになります。いわば生徒たちがしているのは、そのプロセスを手を使わずに 紙の上でしていることです。

 

次にやってみたのは、せっかく4本のペンがあるのだから4本同時に描かせてみよ うということです。そして、この作業を続けているうちに、中にはそれをさらに洗練 したアイデアが出てきました。例えば、それは一つの角に大きな丸を描いて別 の角に 小さな丸を描いて大きな丸から小さな丸で間を埋めなさいと言う指示の仕方がです。

最初、生徒たちはストレスを感じていたようです。それは、自分自身の手を使うこ とができないので、もし手を使えたなら平面上に「ここです」と具体的に示すことが できたのに、それができなかったのでストレスを感じたのです。この人は、正確さを 期するためにグリットを作ると言うことをあみだしました。今度はXY座標が生まれま したので、H2からHいくつまで線を引きなさいと言う指示ができるようになりました 。この段階でグリットが生まれたのですが、結果として、前のものとは全く性格の異 なる作品ができました。これは、コンピュータのグラフィックツールで描かれている のと同様なものとなってしまったことです。それに対して、この人以前の生徒のやり かたは試行錯誤しながらでしたが、そういう中で新たに言語を作り出していくことに なりました。

次の作業として、生徒たちに宿題を与えました。2枚の紙を与え、1枚の紙には指 示を書くようにして、もう1枚には自分の描きたい図形を描きました。これをもとに 、次に1枚の紙を他の生徒に渡して、この記述をレタリングしてみる作業をしました 。この記述を見ると、非常にあいまいな部分がありますので、ちゃんと記述されてい ても元の図形になるとは限りません。実際にやってみたところ、元々描かれていた図 面とは全く違うものになりました。 そういった作業を経て、次にやったのは、もっと 正確な図形が描けるように、信頼できる言語や約束事を作っていこうということでし た。生徒たちは、お互いに話し合いながらこういった記述の取り決めごとをして、自 分たちのコンピュータ言語を作っていきました。しかし、この段階では生徒たちはコ ンピュータを全くさわっていないのです。いうなれば紙、自分の友達、生徒同士をコ ンピュータとして使っていたのです。 このように、生徒たちはある程度正確で信頼の できるコンピュータ言語を体験していきましたので、私はその時点で実際にコンピュ ータに入力して言語化してみました。これは、全て日本語で書かれています。

今までソフトウエアに関して、日本がアメリカに遅れをとっている理由として創造 性の欠如ということがいわれてきました。しかし、私はそうではなくて問題はもっと 簡単で、コンピュータ言語のほとんどはラテン言語、西洋の言語で書かれているとこ ろにあると思います。おもしろいことに優れたプログラマーは往々にして、英語も得 意であるということです。必然的に要求されたスキルかもしれませんが、5年前まで はマニュアルも英語でしかなかったのです。しかし、現在ではマニュアルもすぐ日本 語に訳されてきていますので、状況は変わってきています。  

この実験では、生徒たちはマニュアルというものを全く読む必要がありませんでし た。なぜなら、彼ら自身が作った言語だからです。最初は、この言語は100行に制限 されていました。しかし、作業を続けていくうちに、生徒は「500行にしてくれ」と 要求してくるようになりました。それは、次には1000行へと発展し、ついには5000行 になりました。しかし、生徒たちはそういった作業を続けるうち、長いプログラムよ りもっとシンプルなものの方がいいのではないかと気づいたのです。その結果 、この 7行のようなシンプルなプログラムになってきました。表現の面で見ていくと、興味 深かったのは、長い短いの関係ではなく、短いものの方が表現豊かだったりしたので す。 この中で生徒たちがわかったのは、グッドデザインはシンプルであるということ と同時に、グッドエンジニアリングもシンプルであるということだったようです。

それでは、3週間前に始まったばかりのMIT(マサチューセッツ工科大学)の講義について説明します。講義の 名前は、「ビジュアルデザインのインターフェイスの原理」です。この講義のねらい は、伝統的なグラフィックデザインのあり方と、現在のコンピュータによるデザイン という最新のものを教えるところにあります。 この講義をとった15人の生徒たちは、プログラミングのよくできる生徒ばかりで す。生徒に与えた第一の問題は、XYの軸を元にしてビジュアルを作ることです。こ こでいくつか制限を与えたのですが、1番では丸のみ、2番では三角のみ、3番では線のみを使うと いう制限です。先ほどの多摩美大での講義では3年生が対象でしたが、この講義では 大学院生や4年生を対象にしています。それでは実際に非常に示唆に富んだ結果 が出 てきましたので、それを見ていきたいと思います。これらの作品はすべてJAVA言語で 描かれています。

ここでは一つの点が定められてそのポイントに対して絵が描かれて います。先ほどからいくつか例としてお見せしている作品と同様に、いいものと悪い ものは見ただけですぐわかると思います。 MITの興味深いのは、本当にものすごい壮絶な競争が日々行われていることです。 この講義でも、いかに自分が優位に立つかということで、日々熾烈な戦いが展開され ていました。MITにいると競争のすごさを感じます。

生徒の中にはアルゴリズムをとてもよく理解している人もいて、こういったおもし ろいビジュアルを作ることができるのです。生徒の多くが問題が簡単すぎてつまらな いといったので、とても難しい問題を最後に一つ出しました。その問題は、バランス の具体的なモデルを作るというものです。

できた作品を見ると、とても洗練されたアルゴリズムのセンスを持った生徒もいれ ば、視覚的なビジュアルのセンスが優れている生徒もいるということがわかると思い ます。先ほどの多摩美大のものとは非常に性格が異なるもので、それは数学的な知識 の差にあります。多摩美大の作品は空間をうまく生かしているケースが多かったと思 います。しかし、MITの作品をみると、簡単な言語ではできない作品が多かったと思 います。

教育方法として2つのやり方がありますが、1つは芸術あるいはデザイン学 校で数学的なアプローチを紹介する、あるいはエンジニア向けの学校で芸術的なアプ ローチを紹介する方法です。正直に言って、現時点ではどのやり方がいいかまだ判断 できません。 では、本日のセミナーを締めくくる意味で私が最近取り組んでいる作品を紹介しま す。これは、資生堂のために作っている作品ですが、JAVAで描かれていて資生堂のサ ーバーから見ることができます。

このプログラムは、4つの段階からできていますが、第1にランのデザインができ るところ、第2にデザインしたものをどのようなスタイルでレイアウトしていくか、 第3にメッセージを書くところ、最後は送ると言う段階です。 モデルそのものはとて も簡単で2次元の色や形を変えることができます。次にディスプレイをどのようにす るか選択できます。背景色やサイズを簡単に変えられます。またいろいろなディスプ レイの選択もできます。これはクリスマス用で自分のツリーをデザインできます。メ ッセージも付け加えることができるようになっています。そして他のユーザーにカー ドとして送ることができ、その日にちも設定できます。頻繁に使われるモデルなので 、ユーザーにメッセージをピックアップするURLも送られます。

最近、私は、デジタローグから昨年デザインした時計のシリーズを本にして出版し ました。8月に銀座の数字ギャラリーで展示されました。これらはすべて簡単な2次 元の原理に基づいて時間を示すようになっています。 また、資生堂にJAVAを使ってカレンダーのシリーズを作っていますが、これは2作 目ですが3月1日にはWEB(ホームページ)に上がっていると思います。 この作品は 、2つの線に沿って時間を表現しているんですが、カレンダーであると同時に時間も 見えるようになっています。ウェーブ上のものはデータ量がなるだけ少ないものの方 がいいのですが、イメージを作るとなると得てして容量は多くなります。 JAVA言語の 優れている点は、凝縮されたデータがユーザーに届いた時点で広がるような体系にな っていることです。
以上で今日の私の話を終わります。

 

 

 
(セミナーでの発言から一部を抜粋して掲載しています)
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