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セミナーA
「日本映画の新しい作り手たち」

仙頭武則(映画プロデューサー)
利重 剛(映画監督、俳優)
コーディネーター:浜野保樹(メディア教育開発センター助教授)
 

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■SeminarA

浜野保樹氏

●浜野:去年は仙頭さんの「萌の朱雀」もありましたし、「花火」もあったし、今村監督の「うなぎ」とか、国際的なところで日本映画は活躍しましたし、「もののけ姫」という映画は、もう絶対破られないと思われていた日本映画の「南極物語」の50数億の記録を破って「ジュラシックパーク」って100億近い売り上げを上げた「ジュラシックパーク」の記録を抜くっていう、映画の一つの革新が起こったわけです。私が少しだけ関わった「タイタニック」って映画がありますけれども「タイタニック」っていう映画はアメリカ映画市場初めてワンミリオン、10億ドル、いや、1250億円ていう劇場売り上げを上げたんですね。だから「ジュラシックパーク」とか「ET」とか「インディペンデンスデイ」とか全部の記録を抜いてアメリカの興行史上の記録を破ったということで、衛星だとかインターネットだとかっていう時代に映画が新しい段階にきたってのが去年わかったわけですね。
それで具体的にお二人の作業プロセスとか現在のお考え、特に仙頭さんは今、新しい本を、実際に単行本を準備されていますので、その内容を後で、詳しくご説明いただきますが、その前に若干、私が関わったものの映像をお見せしたいと思います。今からお見せする映像というのは非常に重要に意味を含んでいるのでちょっと目を凝らして見て頂きたいと思います。

「タイタニック」の1シーンなんですけれども、非常におかしい映像なんですよね。あんなでかいタイタニックが今、現存しないですから、それが水の上を走っていること自体がおかしいわけです。タイタニックは東京の池袋にサンシャイン60ってビルがありますが、それを横倒しにした位 の大きさがあるんですよね。ですから今ご覧になった映像は、ディカプリオ以外は全部コンピューターで描いているんですね。海も空も煙も船も全部コンピューターです。二人の人間だけがコンピューターの上に貼りつけられてるわけです。海の波もです。そう思って見ていただくと面 白いと思いますからから、もう1回同じ映像を流していただけますか。ジェームズ・キャメロン監督がこういったものを全部自宅でマッキントッシュのコンピューターを使って編集しているわけです。コンピューターが作ること自体の善し悪しというのはありますけれども、撮影後に自分の家で小説家とか音楽家みたいな感じでキャメロン監督は自宅に器材を持ち込んで作業されたわけです。これまでコンピューターでは7回ぐらいしか映像を貼れなかったですが、これは数10回一つの場面 にコンピューターの映像を貼り込んで作っているんです。これは全部独立して動くようになっていて、同じ絵の上にコンピューター映像の煙や波、船、ロープなど一つ一つ貼り込んでるんです。人間も一つ一つ独立して動くんです。対岸にいる人達もコンピューターでこうやって貼り込んで、全部コンピューターで作っているわけですね。影とかそういったものまでこうやって動くんです。100%コンピューターで作ってるんです。 人間をどうやって動かしてるかというと、いちいちコンピューターで描くのは大変ですから、データを取るスーツを着てデータを取ると一人一人独立の動き方をするわけです。ですから「タイタニック」で高いところから人がわーっと落ちるシーンがあるんですけれども、あれも実は3メートル位 から人を落として10メートル位にコンピューターで距離を延ばしてるわけです。一つ一つの動きを人の手で入力してるんでなくて、俳優の演技をデータでコンピューターに入れちゃって、それをぐっと延ばして高いところから人が落ちるような形にしたんですね。これは海のCGで、これは波のCGですね。いちいち船をコンピューターで作ると面 倒ですから、こうやってダミーの模型を撮って、その上にテキスチャーを貼っていくんですが、非常に簡単ですから、これも俳優に演技させて一人一人コンピューターに取り込んで、人間を船の上に貼っていくわけですね。ポジションもいくらでも変えられるわけです。100%コンピューターで作ってどのショットからでも、完全にできてますから、アングルを変えようとかですね、どうその、回ろうとかいうことが、何度でも簡単にできるわけですね。

最後はちょっとおまけです。タイタニックってほぼ実寸大の船も作りましたが、半分だけ船の片面 だけを作ってコンピューターで反対側を作って貼り込んだんです。両方作るのは金がかかりますから、左半分を作ってコンピューターで貼り込んで一個にしたんですね。 これはメキシコに土地を借りて、プールをまず作って、ほぼ実寸大の船を片面 作っているコマ撮りの記録です。本物のタイタニックって80年ほど前に7億円で作ったんですね。これは10何億ですから本物のタイタニックより金がかかったんですね。勿論お金の価値は変わってしまいましたけれども。まず甲板部分を作ってジャッキで持ち上げて、それから下の方も作り込むんですね。船の片側しか作らなかったのは、映画の専門の方がいらっしゃる前で恥ずかしいんですけど、例えば「スピード2」っいう船の映画見たらわかるんですが、あれは実際の船を使ってるんで、引きがなくてカメラアングルが苦しいんですよね、だから片方ないっていうことはロングで撮ったりとか、カメラアングルが自由になるんですね。そのためにも船はわざ片面 しか作らなかったらしいんですね。これは4つの部分に独立してるんですけれども、何故かというと、プールがそんなに深くできませんから、あんまり大きすぎて傾けられないんですね。だから、4つを一つずつ傾けていってコンピューターで貼ると一個の斜めになるっていうふうに作っているわけです。

こういうハリウッドのシステムは、何も「タイタニック」がすごいからお見せしたんじゃなくて、非常にシステマティックに作られてるんです。ここから仙頭さんとか利重さんのお話しに関わっていくんですが、今からハリウッドのその制作システムがいかにきちんとオープンに誰にも納得できるような形で作られてるのかっていうのをお見せしたいと思います。アメリカの映画制作の予算を作るムービーマジックっていうソフトウェアなんですが、インターネットでデモができますから是非試してご覧になるといいと思います。今、開いたのはムービーマジックのバゼットの予算組の一人一人の専門家の給料を組合ごとに出すところですね。例えばロサンゼルスの何とかっていう組合で、アシスタントカメラマンとかセカンドカメラマン、カメラの技術の方とか、全部、映画の職種が出てます。プロデューサーだけは出てませんが、アニメーターから車両さん、特撮から全部出ています。じゃあカメラの操作の方は幾らだというと1時間あたり26ドル81セント、1時間約3000円強と出るんですね。それで最低でも8時間以上じゃないと雇えないとか、残業は8時間から40時間までしか受けないとかですね、そういった事が全部出てるわけです。休日働くと幾ら追加するか。そういうものを、この人を何人分とか選んでいくわけです。そうするとバジェットから見積書がポコンと出で来るんです。こうやってただ選ぶだけでランキングも全部入った給料が出て来るわけです。ユニオン、組合ごとにこれ全部違いますから、オープンな形でこういうものができるわけです。仙頭さんはアメリカでも映画を撮られたんで、ムービーマジックのこともご存じだと思うんですが、日本ではこういう予算づくりとかというのは、どういうふうになっているのか、ご自分の経験も含めて教えていただけますか。

 


仙頭武則氏(左)、利重 剛氏(右)

●仙頭:多分ですけど、ムービーマジックっていうのを93年に買って、いっぺん使ってみたんですけど、こういうふうに全然システム自体が違いますから、あまり汎用性がなかったので、自分たちでもう1回作り直して、今、かなりの精度にはなってきたなと思っているんですが。

●浜野:それまでは普通の日本映画っていうのは、どういう形で予算組をしてたんですか。

●仙頭:ほとんど勘でしょうね、こんなことかなとメイビーな世界ですよね。最初はこの位 だと思ってたんだけど、こんなことになっちゃいました、どうしましょうっていう世界でしょうね。だからやりながらお金が増えていく。

●浜野:向こうはスタッフにまで契約書を書かせて、それで延びたら幾ら、例えば監督だったらペナルティまで取られていく。日本では一人一人ただの口約束で働いているわけですか。

●仙頭:だと思いますよ。今でもそうじゃないですか。現実にもそういうことは今でも起こっていますからね。撮影が始まったけども、実は制作費が一銭もないんですっていって、みんな帰ってくるという撮影の仕方っていうのは。僕はやったことはないですけども1年に何本かは必ずありますよね。

●浜野:利重さんのご経験ではどうですか。

●利重:いや、僕はこういうところ非常にうるさいというかきちんと契約を組まないとやらない人間だったんで、それで随分うさん臭がられたことはありますね。信用しないのかと。信用はしているんだけど、これは後で問題が起こるといけないから、組みましょうねっていうんですが、そしたら何かうやむやになってなくなっちゃったことがありました。やっぱり契約組まないってことはすごく多いみたいですね。きちんと契約組むってことは、だいぶ増えてきたとは思いますけどね。

●浜野:若い人はこういったシステム自体に気がとられると思うんだけど、僕がやっぱりすごいと思うのは、公開されていて、誰でもが共有して知ることができるってところですね。

●浜野:その点について仙頭さんはどういうふうにクリアしていったわけですか。日本の制作は先程おっしゃったように、なあなあですよね。

●仙頭:多分あらゆることがそうだと思うんですけど、日本人は成功するとその秘訣を隠したがるじゃないですか。教えてって言っても絶対に教えないみたいな。アメリカで一番違うなと思うのはどんどん見せてくれるんですよね、どんなことでも。ありとあらゆるそれが文献、本になっている。「どうやって私は成功したか」みたいな本にまでなっている。僕が今、考えているのはそれをやっていかなきゃいけないなと。俺たちはこうやってうまくいったんだということを見せて、同じ土俵に立った上で、なおかつ作品に差が出るはずだと。それが一番勝負しなきゃいけないとこで、こんなシステムというものは、勝負じゃないんですよ。当り前のことであって、ただしアメリカがいいのは必ずこれを作って儲けている奴がちゃんといるわけです。そういう好循環を日本も生まないといかんやろなっていう気はしますけど。僕はだから、本書くのもそういうことです。いいか悪いかは別 にして俺はこうやってみたと公表するべきだろうという。

●浜野:仙頭さんは幸い外の世界もちょっとは経験されて映画界に入って来られてね。全部一からやられたわけですね。

●仙頭:そうです。

●浜野:日本では仙頭さんが一番きちっとした制作体制をひいて「まあいいじゃん。アーティストだから」みたいなことをやめて、きちんとビジネスとしてやるっていうことを珍しく完成された方ですよね。それはものすごい障害があったと思うけども、自分なりのシステムをどれぐらいかかって、どうやって完成されたんですか。

●仙頭:僕は前にいた鉄工メーカーで営業をやっていたんですけども、それと同じことやったんです。見積りがあって、緻密な予算書があって、なおかつ、きちっとした条件交渉の契約があって、いついっかお金が支払われてという普通 のことを全部やってみただけなんですよ。これが幾らかかってどうなんだ。制作費はこれだけなんだから、それは無理なんだっていう普通 の交渉ごとを全部やってみただけで、むしろ現場がそれについて来られないことの矛盾を解消していく方に時間がかかっただけです。やりはじめてからは3年くらいですかね。僕らからすると「タイタニック」の制作費は260億かかったかも知れないけれども、当初の予算は百何十億ですから、「倍かかってオーバーしたんだろ」と。「そりゃプロじゃないよ」っていう。実はすごいかもしれないけど「誰か管理する奴は不適格だよね」っていう印象しかなかったです。「実は日本とやってること一緒じゃん」と安心しちゃいましたよね。額がだいぶ違いますけど。僕らは今、億単位 で動いても最終的に何十万しか誤差ないですから。日本では今まで誤差10%みたいな言い方を平気でしていたので、2億円あったら2千万ぐらいオーバーしてもいいんだみたいな何かわかんない固定観念があったんですけど、僕らの誤差は0.1%です。そこまでもってきたんですが、それでも一般 企業、メーカーで言えば歩止まり率っていうのは一番、工場では基本とされるものですから、それを確保するのは当り前のことなんですよ。それで絵に一番お金をかけようってのが本当は大事なことです。 浜野:若い人がよく誤解するのは、表現したいということは、すごく純粋なことだから儲からなくたっていいじゃんとか、アルバイトして映画撮って何で悪いんだと。僕は昔それはよくないっていって大喧嘩したことがあるんですよ。それで食えるような形にしていかないと、再生産にならないし、次に続く人達にチャンスをあげられないからと。 きちんとシステムを作って、その代わりオープンにして才能だけで勝負できる、変に金持ってる奴だけが小遣いで映画をつくるんじゃなくて、やるって形をとらなきゃいけないって言ったんだけど、そういうとこありますよね。利重さんなんて若い時から撮ってらっしゃったから。作れたらもうハッピーっていう人、結構いるじゃないですか。

●利重:それはいますね。僕自身も「アルバイトして」っていうことでも構わないとずっと思ってましたし。ただ、自分が作る映画に関しては、それなりの計算もして儲かるはずだっていうふうに思ってました。ただ、そこに至るまでは、絶対これだけくれとか、これがないとやらないということではなくて、その代わり後で儲かったときのパーセンテージでどうとか、これは絶対当たるはずだからっていう考え方はしてましたけどね。最初からこれだけは絶対くれっていうふうではなかったんですよね。

●浜野:利重さんは、お母さんが高名な方ですから、映画界に割りと入りやすかったと思うのだけれど。映画界ってのは特に若い人が多いから、オープンな形でシステマティックに開かれてないっていう、まあ僕が入れなかったからそう思うのだけど。

●利重:そういうところは多いんですよね。だから、仙頭さんと2本組んで、ようやくこういう人に会えたなっていうのが実感だったんですけど、さっきの話で言えば、絵で見えるところにお金を使おうってことで、最初に組んだのが「エレファントソング」で予算的にはすごく、びっくりするぐらい安かったんですけど。 それでも制作費をパーセンテージで割って、これだけかかるだろうってのを全部見せてくれて「どうだ」と。すると「俺の感じで言うとクレーンは使わないから、ここは削っていい、ただ、ここはちょっと欲しいな」って。じゃあこれをこういうふうに撮していこうみたいなパズルをきちんとやって、どれだけ絵を豊かにするかっていうようなことを一緒にやれたから、それがすごく嬉しくて、ああこういう人が出て来たんだなと思いました。 次の「BeRLIN」をやった時は、やろうとしてたこともちょっと大きかったし、予算も随分上がったんですけど、それよりもっとやりたいことが多かったもんですから。「その分ギャラ的なことで、スタッフがちょっと安くなるかも知れない」みたいな話をしたら、いろいろ契約書をきちんと組み替えしてくれて、公開の時に何%、それからビデオの時は何%とスタッフ全員と契約書を組んでくれて。その代わり条件は2つあって、「今これじゃ我慢できないっていう人は、これだけ払うけどパーセンテージはなしね。どっち取る。」って言った時に、やっぱりスタッフはみんな夢見るから「パーセンテージの方を取る」ってある程度安くやってくれたりしたんですけど、そういう事をきちんとやってくれているということで、僕はすごく助かってるんですけど。
だから本当にオープンにしてることは大事なんだけど、これにもやっぱり無駄 があるわけじゃないですか。これだけ過信してるとやっぱりオーバーすることになっちゃう。本当に同じクオリティーのものを作って、二百何十億かかるのか、百何十億でおさめられるのかっていうことならば、やっぱり百何十億でおさめた方がいいわけだし、はなから二百何十億あるんだったら、もっとすごい事ができるわけで、そのもっとすごい事をするためには、やっぱりオープンにしていかないと、という気はするし、そうあるべきだってずっと僕は思っているんですけどね。

●浜野:今、利重さんがおっしゃったパーセントってのは、利益があがった時に幾らってというロイヤリティーを払っていくわけですよ。例えば「タイタニック」ってものすごく上がりましたから、その利益の何%と。利益が上がらなければ、彼らはただ働きで、利益が上がればパーセントを取る。ただし、そういった制度って、すごく日本には根付かなかったんですよね。ロイヤリティーっていう考え方は仙頭さんぐらいから。

●仙頭:そうですね。実際に契約したのは本当、僕らが最初ぐらいじゃないですか。 契約書が存在してるのは。

●浜野:それはどっちもリスク負うわけですけど結ぶ時はハッピーですよね。ロイヤリティーで結ぶと、利益が上がれば自分に入ってくるわけですから。

●仙頭:やはりそこが変わってきますよね。

 
  浜野:もう一つお見せしたいものがあって、いかにアメリカが、例えハリウッドであったとしても若い人々に開かれているかってことを示すソフトがあるんです。「ハリウッド・コネクション・キット」という、どこにアクセスしたら仕事が貰えるかっていうソフトウェアを売っているんです。例えばトム・クルーズを使って映画を撮りたいって新人監督がいるとするじゃないですか。僕らはそんなの諦めるけど。トム・クルーズってのをクリックすると、トム・クルーズのファックスとかね、もちろん自宅じゃないですが電話をかけたら応答してくれる窓口がちゃんと出るわけですね。だからトム・クルーズとの出演交渉とか全く知らない人でもこういうものでできる。これは彼がOKしてオープンしているデータですから、ちゃんと応答してくれるんですよね。ワーナーだと、普段、社長とか忙しいですから、副社長とか対応する人達の名前が出てくるんですよ。こうやってクリックすると自動的に電話がかかって。こういう形で一応は窓口を開けているわけです。 一番今、若手の方を積極的に取り込んでいったのが、多分日本では、やっぱり仙頭さんだと思うのね、奥様の例を取ると。奥様は元々、記録監督でしょ。それがどうして劇場長編映画を撮ることに。そのプロセスを説明していただくと、若い方の参考になると思うんですけど。

●仙頭:僕がもう数年ぐらいやっている、利重くんなんかもやった「J・MOVIE・WARS」という全部、新人監督のデビュー作で、その中から青山真治とかも出てきたりしてるシリーズがあって、そこへ彼女が本を持ち込んできた。現場の方もシステムとしては形を整えてあるんで、助監督経験がなかったり、劇場用映画や劇映画の経験がない子でも、本が良ければ、あるいは本人が面 白そうならば、できるであろうというのが一つです。 それと、ビジネスとしてのストラクチャーとしては、僕、一本一本でお金を集めないんですよ。1年で例えば4本ありますと、こういうタイトルの4本に対してお金を出してください、というお金の集め方をするので、リスクは割と低いんですよ。ある作品には例えば、わかりやすいキャストが出ている作品もあるし、ある作品では素人の女の子が監督する作品もあると。それにまとめてお金を出してくださいという発想をするので、形にはなりやすいってことです。多分1本だったら、やっぱりお金は集まらない作品ではあるんですよ。キャストもわかりやすい人が誰も出てない、ほとんど地元の村人ですから。それでビデオ何本でますなんて誰もわからないですから。それで、ある程度の額のお金を集めるにはそういう作り方をするしかない。
僕は割と監督と組む時っていうのは、新人ばっかりですから、才能もへったくれもわかりゃしないんで、生理的な問題だけなんですよ。利重くんと何本もやってるのもそうですけど、一緒に組めるかっていうことですよね。僕らのような何百億かかってなくても1本映画を作るってことは大変なんで、共通 認識をもって信頼関係を築けて、最後まで3か月なり4か月を共にやれるかということが大原則になりますから。僕は、むしろ技術パートには技術能力を要求しますけど、監督はそれほど技術の問題じゃない、やっぱり元々持っているイメージ、才能の問題だから、そこをクリアしていればシステムとしては完成しているものができるであろうということです。

●浜野:河瀬監督の場合は持ち込んで何かを作らせてください、から始まったんじゃなくてシナリオを持って来られたんですね。

●仙頭:そうです。僕のところでも珍しいですよね。だいたいシナリオも一緒に、脚本家なり、監督と作るのが普通 なんで、それさえないところから始めるっていうのは新人と組んでいくやり方ではあるんですけど。脚本があったものを形にしたっていうのは珍しい例ではありますね。

●浜野:今、ご説明いただいたのはとてもハリウッド的だと思うんですよ。アメリカでは助監督ってのは一つの専門職ですから、助監督の人はずっと助監督です。監督はいきなりスピルバーグみたいに21歳位 から監督やるわけですよ。シナリオ書いてやるとか、映画大学いって15分でもいいから35ミリ、16ミリでもいいから撮って、テレビ映画から少しずつ監督で修行していくって形です。すごくハリウッド的なシステムのように思うんだけど、それは意識されていますか。

●仙頭:割としてますね。監督はすぐできると。

●浜野:経験なしでもできる?

●仙頭:そうですねぇ。現場経験がなくても監督はできるんですよ。そのほかのパートは技術ですから無理です。技術は時間をかけて、テクノロジーは修練しないと発達しないもんですから。監督は最初から撮れる撮れないってのは、はっきりしている。だから、生き残ってる人っていうのは1本目からすごいわけですよね、全員。

●浜野:でも、そういうシステム入れると、長い間、助監督していつか監督になろうと思って僕ぐらいの歳になった人は、むくれちゃうんじゃないですか。

●仙頭:むくれます。むくれまくってるでしょうね、僕なんかのやり方だと。しょうがないんじゃないですか。

●浜野:利重さん、岡本喜八監督の助監督とかもやられたんだけど、どうですか。日本みたいに助監の経験ない奴は駄 目みたいな、それをこう出世させて監督にしてあげるみたなシステムがずっと70年ぐらいきたんだけど。

●利重:僕は助監督経験は、あった方がいいと思うんですけど、ただ助監督でフォースから始めて、サードやって、セカンドやって、チーフやってというふうに十何年やってようやくデビューっていうことはすごくつまらないことだなって思って。さっきのオープンみたいな話になるんだけど、やっぱり現場こなして助監督やってるとノウハウがあるわけですよ。いざという時に、演出でこういうイメージが欲しいんだって、もっと具体的に言える。昨日、宮本さんが言ってらしたけど、プログラマーに言う時に、プログラマーにわかりやすい言葉で伝えないと、すごい時間がかかっちゃうみたいなこともあるし、だからある程度、自分の経験があった方がより現場で強いわけですから、やっといた方がいいと。ただ、助監督でこうやってここまできたんだから撮らせてくれってこととは、全く才能とは違うから。 岡本喜八さんとこに僕は一番ペーペーで入れられて、結局一番早くデビューしちゃったっていうことは、やっぱり自分が本書いてたからだと思うんですよ。監督に「これどうですか」なんて一番生意気だったわけだけど、それをやったからだと思ってるし、岡本監督からもそう言われたんですよ。
これからは、いい才能もった奴なら誰が監督やってもいいって時代になるから、お前、本書けないと駄 目だぞと。自分で本書いた奴が一番先に撮れるって時代がくるし、それにお前、役者もやってるみたいだけど、それはそれでやっとけと。顔が売れてる奴っていうのは宣伝しやすいから、それが足しになって、映画が作れるってこともあるだろうと。 まさに今のことを全部その時に予言してくれたんですけど、それでやったらその通 りですね。一番先にやっぱりデビューできたっていうこともあって。だからやっぱり助監督はやっておくべきだと思うし、美術パートでも何でもいいんですけど。

●仙頭:知っとくべきだと。

●利重:知っとくべきだと思いますね。

●浜野:ただね、その川瀬監督みたいに自分で記録映画で一人でやるってのは作れるけど、助監督ってのはプロジェクトに参加しなきけりゃならないでしょ。その窓口が若い人に開かれてないんじゃないんですか。

●仙頭:そうですよね。僕らもだからどうしていいかわかんなかったですからね、昔。

●浜野:どこから助監督をもってくるわけですか。

●仙頭:僕は今、日本大学芸術学部とか、日本映画学校「うなぎ」のとこですね、ああいう学校から。一応定期的に話はして希望者がいればいつでも入れますよという仕組みにはしてあるんですけども。一般 のところとも割と大学の映研とかとは話はしてるんですけども、なかなかいないですよ、逆に。

●浜野:希望者、殺到じゃないんですか。そうでもない。

●仙頭:いやー希望者、希望者ねぇ。

●利重:俺んとこにも来ますよ、やっぱり希望者ってのは。ただ、怖いなと思うのは、僕もそうですけど、とにかくこの監督のところ好きだから参加させてくれって家まで行って、土下座でもして、ただでもいいからやらせてくださいって言えば、まぁしょうがねぇなってやらせてもらえるわけですよ、現場がある限りは。そういうふうにして来る奴には今、俺は撮る映画、当面 ないから、じゃあちょっと、どこか紹介してやろうかってことあるんだけど。ここ何年間かは手紙が来て、御社の何たらでどうのこうので採用していただけませんかみたいな、何か就職みたいな感じで履歴書を送ってくるんですよ。そうすると、これは気持ち悪いなあと思って。(笑)

●仙頭:キャメロンも思ってないですよ。お金は別にして「映画だ」って思ってると思いますよ。そこはやはり基本だから、僕らもそうなんで、「映画でもいいんですけど」じゃあちょっと困る。そこがまさしく生理的な信頼度の問題になる。

●利重:そうですね。履歴書が来て、いろいろ自分がこういうふうにしてきたみたいなこと書いてあると多少は興味を持つじゃないですか。それで電話かけてみて、何で俺んところに送ってきたの、俺の映画観たのって聞くと、観てなかったりするんですよね。 何だかよくわかんないですよ。入口がどうもわかんないんでっていうことで、とりあえずってことはわかるけど、入口がわかんないにしてもその人のことに興味を持って調べて行かないと、これはどこの会社行っても駄 目ですよね。というようなことが結構ここ何年か多いですね。何かいろんな手紙とか電話とか来るんだけど。

●仙頭:会社で営業して相手の会社の社名とか間違えたら上司に怒られるじゃないですか。平気なんですよ、割と。僕の名前とかも間違って脚本とか送ってくるし、僕らだったら考えられないことやけど。どうも映画の連中だけかなと思ったら、この頃聞いたりしても、よそのところも一緒だって言うんですよ。NTTの正式名称知らないでNTTに応募してくるんですって、そういう時代になっただけなのかなって。そこで判断しては本当はいけいなのかも知れないけど。

●浜野:僕は兵庫県の田舎にいたんで、例えば名画って言われてるものを観たいと思っても、田舎だから観れないわけじゃないですか。神戸か大阪に出ない限りは、アートシアター系なんて観れなかったし、「羅生門」なんて観たいと思ったって観れないんですよ。だから、日本シナリオ作家協会に手紙書いて、シナリオを買って「羅生門」のシナリオ読んで、多分、黒澤監督だとこう演出したんだろうなってシュミレーションしたりして勉強してたんだけど。今の人はビデオが山ほどあるから昔の映画評論家より映画観てますよね。それで、ものすごく事柄を知ってるんですよ、情報もいっぱいあるし。でもある部分豊かなかのある種の貧しさというか。僕の場合は初めて東京行った時に「羅生門」がATGにかかってて、全部自分が演出してみた「羅生門」と比べてみたんですよね。ああ、このシーンは俺の方がうまいわとか、このシーンはやhり黒澤監督、天才だなとか思って自分で比較してやったりとか。すごく好きなやつは画面 みてシナリオ書き写して、オリジナルのシナリオとどこの書き方が違うかって見てみたりね、トレーニングはしましたよね。何も苦労がいいとは思わないけども、そういうこう全体に映画にたっぷりと浸かっている人達が、何となく映画にいきたいっていう気分はすごくあると思う。

●仙頭:でもね、これから変わるんじゃないですか。 むしろ、もうちょっといろんな線がはっきりすると思うんです。僕らはその前から重ねてきたことがあるんで、それがうまく形になりだしたので、違う世界になっていくかなと。あっち側とこっち側で二つできるのかなみたいな雰囲気にはなってくるし、もっと言えばボーダレスになるんじゃないかと。一昔前なら、極端な話、僕みたいなもんが、東宝の150館の映画なんかやるはずがない、ありえないんですよ。それができるようになってきたのは、現実的には状況が変わってきたんだろうなっていうのと、僕らは日本を無視してやっていこうみたいなとこから始まってたんで、日本はいいや最後でっていう。海外の方はもうネットワークが完全にでき上がっちゃってますから、そういうのも含めて。

●浜野:「萌の朱雀」以外にも海外に配給の実績はあるわけですか。

●仙頭:海外配給とか人脈とか、「萌の朱雀」以前で、僕はあらゆる世界の映画祭に全部行ってますからね。「日本人でこれだけどこ行っても来てるのはお前ぐらいしかいないよ」っていうのを重ねてきて、ああいうふうになっているわけで、何の偶然でもないですから。それこそ監督一人がすごかったというような論じられ方をしてますけども、多分どんなやり方をしても「萌の朱雀」はできたでしょうけども、こういうことにはならかったですよね。

●仙頭:やっぱり時間をかけてシステム作っていかないと、そういうことはあり得ないですよ。

●浜野:お二人は専門ですからご存じですけど「ギャガ」って会社があるんですよね。映画「セブン」とか「ゲーム」とか「マスク」もやっている。「ギャガ」社長の藤村さんってのが元商社マンで、ビデオは将来性があるだろうと思って独立して、映画のえの字も知らないのにアメリカのビデオフェスティバルみたいなとこに飛び込みで行って、「ビデオの権利を売ってください」と言ったら、フォックスで「お前フォックスって会社知ってんのか、日本にも代理店があって」と言われて、「いや初めで映画のこと何も知らないんで、フォックスってどういう会社ですか」って聞いて叱られたってことをおっしゃってましたけども。 やっぱりそういう新しい違うルールというか、本当は社会のルールはそっちで、映画界が違うルールって動いてた。映画人って特殊だとか、アーティストだからっていう部分はあったんだけど、ビジネスはビジネスですからビジネスのマインド持った人が入って来て、「ギャガ」は、ちゃんとしたニューラインって会社の配給権ももらったりして大きくなっていって、それなりに成功したわけですよね。ただ特殊っていうことで許されて、それに憧れるという若い人が多いんだけども、日本は違う映画界ってのがあるんだろうけど、グローバルにみたとき、まったく違うじゃないですか。きちんとしたビジネスとして産業として成立してシステムとしてあると。それを仙頭さんはやったし、利重さんみたいなそういうことを理解した人とやっていって、掛須さんとか周りにその輪ができてきたわけですね。その圧力はどうなんですか。日本でそういうことやったときの、足引っぱってくださる人がいるでしょう。 仙頭:足引っぱってくださる人いますよ。嬉しいぐらい引っぱられますね。そういう引っぱり方があるかってぐらいやられますけども。僕自身は未だに日本何とか協会、いっぱいあるなってびっくりするぐらいあるんですけど、ひとつも入ってないですよね。WOWOWの社員なだけですよね。映画作ってるどうするこうするって協会とかは何にも関わりないですよ。だから僕のやってるものってのは日本アカデミー協会とは一切関わりない。異分子だったという扱いが、だんだんこうなってきて東宝で賭けたら当たっちゃったんですよね。彼らにすると。当たっちゃったから、さて困ったっていうのが、ここ1、2年ですよ。僕らは今がチャンスですが、みな、どうしようかなぁって困ってますよ。

●浜野:それで利重さんは、もちろん仙頭さんだけと組むわけではないじゃないですか。組む時は何か若干リスキーな気分とかあるわけですか。

●利重:リスキーっていうと。

●浜野:あとで他のメジャー系の仕事もするとか。そういうのは全くないわけですか。

●利重:いや、だから僕、仙頭さんと今後ずっとやろうと思って(笑)。また難しい話ですが、メジャーでもそのわけ方がこれからどうなっていくか、僕はぜんぜんわかんないんだけど、他の会社でやってもいいと思っているし、僕は元々いろいろ渡ってきた人間だから新しい人とやるのも好きだし、自分がここならやれるってところだったら、一緒に夢見れるんだったらどこでもできると。だからあんまり難しいこと考えたくないので、仙頭さんもいるので、とりあえず企画考えて脚本書いたらとりあえずは仙頭さんに渡すからよろしくねという話は去年しまして。それでもうリスキーがどうのっていうふうには考えなくなりましたね。メジャー系、仙頭さんとやってることで他と組めなくなるってことはないし、そこがまた全体的にどう変わってゆくのかなって逆に興味を持ってますね。例えば洋画と邦画ってわけ方じゃなくて僕はハリウッド映画と映画って分け方をずっとしてたんです。ヨーロッパの映画であれ、アジアの映画であれ、映画というのが一つあって、ハリウッド映画ってのが一つ、ちょっとシステムとして違うとか、脅かし方が違うというか、お金のかけ方も違うという考え方をしてたんだけども。ハリウッドもそれだけじゃもたないからやっぱりクロスオーバーしていかなければいけないと、インディペンデントみたいなものを入れなきゃってタランティーノなんかが入ってくる。そうすると、もうどんどんいろんな垣根みたいなのがなくなっていくかなっていう気がしてるんです。だから日本映画もメジャーとか何とかまだ考えとしては残っているんですけど、大手の映画会社が自社で制作してるのは年間何本あるのかというと、もうほとんどないわけですね。要は町場のプロダクションが作ったものを買い上げてるという形になっている。それを考えたらインディーズって考え方でもあるわけですね。インディペンデント映画を大きい会社が大きい配給システムで配給していると。そう考えると、あそこの小屋にかかっているからメジャーなのかっていうと、メジャーっていう言葉すら何だか実体がなくなっていくわけですよね。どういう名称になるかはわからないけど、日本映画はこれからそれが変わっていくだろうと思うんですよ。僕はそんな名称、あんまり気にしてないですけど。

●浜野:ちょっと説明加えますと今メジャーってのは松竹、東宝、東映ってあるんですね。年間だいたい20本ずつぐらい配給をしてるんですが、自社で作ってんのは東宝は「ゴジラ」とか「モスラ」とか1本か2本です。東映とか松竹もほとんど自社ってないですよね。「虹をつかむ男」とかあの程度ですね。だからみんな独立系の映画とタイアップしたり、買い上げたりとか、そういった形で作っているんですね。映画会社だっていっても俳優や監督かかえて何かやってるっていう会社じゃなくて、映画をただ配給させてる会社なんですね。 利重さんはハリウッド映画とそれ以外って分けられたけど、ハリウッド映画ってプロデューサーの映画ですよね。プロデューサーが監督に「お前はもう駄 目」って言って次の監督を据えたり、シナリオ勝手に変えたりとか。その部分で仙頭さんはハリウッド型じゃないですか、そうでもないんですか。自分で完全に掌握して監督や演出にまで口出しするとか。

●利重:演出に関しては口は出さないですね。

●仙頭:演出に関しては言わない。現場に行ってやりますけど、やっぱり同じようにやる。本なんかでも、これこうした方がいいんじゃないか、それこうじゃないかって普通 に本の議論をするだけです。

●浜野:ただ日本の監督ってのは、ちょっと甘やかされてる部分があるじゃないですか。現場で全部ちゃらになっちゃったりね、雲が来るまで待とうとか、電信柱切れとかね。伝説では面 白おかしく伝わっているけど、そういうのが映画だって思ってる人いっぱいいるんだけど、それは映画じゃないんだよね。創造にほとんど関係ない話で、現場に行って仕切りが悪かっただけの話でね。そう人とは組まないわけだ。

●仙頭:そう人とはやらない。最初から選ばないってことですね。日本は監督至上主義なんですよ。撮影場がいっぱいあったからプロデューサーがいらなかったんです。工場で映画つくってるから。工場長さえいれば、適当にダーッとラインで流していればよかったんで、だから予算管理なんかもずさんだったんですけど。外でつくり出したら、一本一本の責任者はいるってことですよね。僕の解釈では映画の現場で監督はピッチャーで4番なんですよ。カメラマンがキャッチャーぐらい。そこの図式をみんなが間違っている。多分、監督はベンチにいると思っているから間違うんですよね。それでプロデューサーはフロントだと思っているから、参加してないと思うんです。それが実は日本の現場の人たちもそうなんですよ。監督ってひょっとするとプレーヤーでないと思っている節もあるぐらいで、プロデューサーはスタッフじゃなくてフロントなんだと思っている。その最大の認識の間違いが両者にある。観る人にもあるだろうし、作っている側にもあるし、僕はそうじゃなくて現場に出ようと思ったんですよ。俺もユニフォーム着るぞと、着てるぞっていう意味ですよね。

●浜野:ちょっと最後に利重さんのシステムを聞きたいと思うんですけど。アメリカは完全に絵コンテをやって、だいたいその通 り撮っています。だから急いでるときは違うグループ、第二班の監督を作ってばーっと平行的に撮ったりもしますよね。黒澤監督とかいくつか日本の現場を知ってますけど、黒澤監督は絵コンテを意外と丁寧に描かれるんでカメラマンはイメージ湧くんだけど、利重さんは本書くでしょ。現場で演出までどういう形で進められるんですか。絵コンテは描くんですか。

●利重:絵コンテは描かないですね。コンテに線を引っぱっていくっていうのはやるんですけど。多分ここは引きで、ここでこの人の表情は欲しいからと線を引っぱって、現場に行きましてリハをやって、芝居を通 して見る。すると、そこの芝居が少しこう変わってたり、あそこの表情良かったから、ここのアップを伸ばしたりという時に、カメラマンと相談して、ちょっとこっちからも押さえておこうとか、変えようとかということですね。きちんと絵コンテがあると、それ通 りにやんなきゃいけないと、100パーセントを目指すと結局、80パーセントの映画しかできないんですね。さっきのお金の計算もそうだけど、僕はもったいないと思う方だから、どれだけ絵をよくするかっていうことでいくと、絵コンテがない方が現場でいろんなことが起こるし、ディスカッションも起こる、いろんなアイデアも出てくる。その時に最初、自分が思ってたものより、良くなったりすることが起こり得るので、失敗することもありますけど、やっぱり目指す以上は120パーセントの映画にしたいから、絵コンテは描かないっていうシステムで僕はやっています。目指すところを決めるっていうか、この指とまれから始まって、行きたいのはあそこなんだよっていうことをスタッフに言う。

●浜野:カメラ位置とか大体のこと考えて、現場に行ってポジションを決めるわけですか。

●利重:そうですね。必ずこうでなきゃっていう複雑な動きの時は最初からこうしたいんだって描きますけど。全部ワンカットでいきたいんだっていうスペシャルな、ここは脅かしみたいなところは、すごくこだわって最初っから決めますけど、芝居撮ってるときはやっぱり芝居をどうやって撮るかっていうことの方に僕はいきますね。絵コンテにはめると大体ろくなことにならない。一度、絵コンテ切って作ってみたことがあるんですけど、しっかりした映画になっちゃって、全然面 白くなかったんですよ。人に見せても「しっかりしてるね」って言われて、そんなのは別 に目指してるとこじゃなかったんで、僕はそういう映画は向かないなって思ったんです。

●浜野:利重さんが言ってらっしゃることは、すごく納得するんですけど、プロデューサーとしては、絵コンテがあってきちんと撮って。そうでもないんですか。

●仙頭:いや、やっぱり監督によりますね。作家性っていうのは、そういうことなんですよね。個性として一番重用視しなきゃいけないから、やる内容によっても必要なことと必要じゃないことがありますが、ニューヨークでやった時なんかも全カット、コンテ出してましたけどね。

●浜野:アメリカの人と働く時はコンテがないと。

●仙頭:話せないですからね。日本でもやる時はやりますよ。絵コンテ全部出すってこともしますけど。

●浜野:でも、プロデューサーとしては要求はしないんですか。出せって。

●仙頭:出した方がいいと思う奴には言いますよ。必要ないだろうと思う人間には言わないですね。実は一番問題かどうかわからないですけど、日本のシナリオの書き方なんですよ。アメリカとは違うんですよね。アメリカは絵コンテ描かないとわからないシナリオの形態なんです。日本は割と文体とかファジーないい部分があって、シナリオ文学って言われるぐらいですから、シナリオから出てくる雰囲気ってのは明らかにあるし、表現の仕方でなるほどと、こっちがわかればいいですよね。現場の段取りの問題がそれでなければ、コンテはいらないと。横で監督とカメラマンが打ち合わせしていて「ここら辺はこう撮ろう」っていうのを聞いてれば大体わかるわけですね。多分、今までの人はそういう打ち合わせの際に聞いてなかったんでしょうね。僕は聞いていたらわかりますね。こういうふうになるだろうなって。それで時間は、このぐらいかかるだろうから、これでいいんじゃないのっていうのが読めればいいわけですね。アメリカでやった時は、ぎゅうぎゅうだったんですよ。コンテ詰めて、分刻みの時間でっていう本当のアメリカシステムでやったんですけど、やってておもしろくないですよ。本当にただの再現フィルムで。 そうなると逆にお金が必要になってくる。

●浜野:そうです。僕は「ツイスター」もやったんですけど、大分かかったんですね。最初、日本人が主役だったんですがキャンセルになっちゃって、あんなつまんない映画になりましたけど、僕が関わってないからああいう駄 作になっちゃったんですね。それで「ツイスター」の時も、びっくりしたのはシナリオから絵コンテまで完全にやって、その部分で莫大なお金を使うんですよ。一流の漫画家を使うんです。「ターミネーター2」だって最初は大友克洋さんに絵コンテを描かせたいって、キャメロンがずっと言ってたぐらいで、莫大な金をかけて制作前までのプリプロダクションをやって「駄 目だ」ってなると、もうそこで捨てるんですね。俳優を使いはじめると、もっとバジェットかかりますから、そこで判断すると。そのためにプロデューサーとか出資者が、この時間帯で、ここに盛り上がりがあって、キスがあって、裸があって、暴力があるから、これはいけるわってんで、その叩き台のために完全なものを作っちゃうんですね。あとはイメージを俳優で置き換えていくだけだから、監督はただタッタカ、タッタカ撮っていくわけですね。プリプロダクションの絵の肝要でロイヤリティーが決まるってぐらいプリプロダクションをきっちりやるわけですね。仙頭さんがおっしゃるとおりで、ものすごい時間をかけてやるから、そのかわりに莫大な金が、プリプロダクションにこそ金がかかってしまうんですね。

●仙頭:もっと言えば僕らがやってる映画なんて絵コンテにしたらつまんないですよ。長ーいカットがあって、人がその中ワンカットでいっぱい動いてる部分が多いですから。それは人によってはカット割りが多いから面 白いって人もいるでしょうけど、じーっと見てりゃ、ワンカットの中で人が動いてるから面 白いこともあり得るわけです。それは撮ってみなきゃ正直言うとわかんない。ワンカットの長回しで、カメラが一緒に動いて、おばあちゃんがこてっとこけたぐらいでも、面 白いことになるわけですよね、やりようによっては。現場でやらなきゃならないことは、再現じゃなくてそういうことだと。全部わかっていることをやるんじゃなくて。もう1回やってみようとテイクを重ねるのはそういうことだろうと思うんですよね。監督が「おばあちゃん、さっき3歩目でこけたけど、2歩目でこけてみるかい」ってなことをやるわけですよ。そこが面 白いわけですよね。それこそが僕は映画だと思っている。最後の砦はね。 浜野:だからハリウッドと違うアプローチを、要するに同じアプローチ取ったって勝てないから、あんな物量 の。

●利重:僕は「ツイスター」の時にかわいそうだなって強烈に思ったんですよ。お金かけなければもうできないんですよね。台風の話だと聞けば、ハリウッド映画だから台風が何回か最初は小さい台風が来て、最後は一番大きい台風が来るんだろう。それをずっとドラマにするためには、台風を調査してる奴が主人公だろうなって。それでラブストーリーも入るだろうから、別 れた彼女か離婚しかかってる女とライバルは出て来るであろう。とりあえず女が主役であれ、男が主役であれ、そういうのが出てくるであろうと。最後の一番大きい台風で一緒に助けるか何かの共同作業をして、ハッピーエンドになるんだなっていうふうに思っちゃうじゃないですか。映画観にいくと、それでしかないんですよ。そうなったらあとは見たこともない、ものすごいでかい台風をどうやって作るかしかないんですよね。それはお金をかけなければ、作れないじゃないですか。お金かけなかったら、どんなに表情が良くてもストーリーがそれなんだから、面 白くない映画になっちゃうわけです。限界があるわけですが、もう、どんどんどんどんお金をかけてくしか、なくなっちゃうっていう。

●仙頭:今のハリウッドの映画全部とは言わないですけど、アミューズメントですよね。ジェットコースターに乗ってるみたいな気分でしょ。どういう気分かというと「ああ面 白かった」だけですよ。どんな話だったってわかんない。ジェットコースターに乗っててあそこの右カーブがこうなってて、あのあたりからこう下がってって誰も言わないですよね。ハリウッド映画の作りって、今まさにそうなっていて誰もストーリーを語れない。最近「メン・イン・ブラック」とかいうのを観ても、僕自身語れなかったですからね。終わった後、えっとこれどんな話だったかなっていう。

●利重:これから作る方は苦しいだろうなと思うんですよね。

●仙頭:単純に僕自身は、どっちでも良かったんですよ。監督でもいいし、プロデューサーでもいいし、カメラマンでもいいわけですが、自分の資質がプロデューサーに向いてると思ったからプロデューサーをやっただけで。それと自分自身でわかるところっていうのは、ビジネスのお金の計算とかうまいと、最初のとっかかりの勘がいいってことですね。これから150回であれ何であれ、ホラーだって言ってぱっと当たるっていうことですよ。それはまさしく最初の言いだしっぺの才能ですよね。別 に演出して、現場をコントロールすることだけが映画作ってることではないし。みんな勘違いしてるのは監督が全部それをやってると思ってることで。だからお門違いなマスコミは全部、監督がやってると思って、監督に制作聞いて現場のストラクチャーから何もかも聞くわけですよ。プロデューサーはスポンサーだとパトロンだと思ってる。そんなことはありゃしないんですよ。ひょっとすると今までの奴はそうしてきたのかもしれない。でも、これからはそれじゃ駄 目なんだ。プロデューサーが、現場のある意味では監督と一番の強硬な、対等なパートナーである図式にならないとできないから。それは映画作っていることになるわけですよ。

●浜野:面白いですか、プロデューサーは。

●仙頭:面白いですよ。だからインタビューだとかイベントだとか去年、結構引っぱりで出されたりして、初めて世の中の人は、なるほど俺はねーちゃん騙して映画作らせた悪い奴なんだと、後からわかりましたからね。あったま、きましたけどね。現実はそんなことはないんですよ。よっぽどこっちの方が大変なんですよ。だけど作品のありとあらゆることに関わられる。実は一番全部わかってなきゃいけないし、編集だってできなきゃいけないんですよ。できない奴が今までやってきちゃっただけで。だから一番面 白い仕事ですよね。現場で演出するのが好きな人はそっちをやればいい。カメラ覗いて「俺はこう切り取るのがうまい」と思う奴はカメラマンになればいいですよ。みんな勘違いしているのはそこですよね。みんな役割きちってもって、あんだけ人間いるわけですから、その中でやっぱり鍵を握れる職種ではありますよね。

●浜野:利重さん最後に、やっぱり演出家になりたいと思う人は結構多いんですよね。だから是非何か。準備期間中は何をすればいいんですか。

●利重:何をすればいいんですかね。ただ作りたいんじゃなくて、こういう映画が作りたいんだっていう、何で作りたいかがはっきりしていれば、その人は作るんじゃないかなと思いますし、あとは向き不向きってのがあると思うんですよね。僕もプロデューサー的発想ってのをよくするんですけど、それまでの10年以上がプロデューサーいないって思ってましたから。自分でプロデュースまでできるようにならんといかんぞっていうことで、僕とか僕よりちょっと上ぐらいの世代はプロデューサーも兼ねて作っている作家が多いと思うんですけど。プロデュースも面 白いなって思ってそれも興味は持つんだけど、資質としてやっぱり監督の方なんだろうなっていうのがあるんですよ。プロデュースやっていくと作りたい映画がいっぱいあるわけだから、誰かに任せて、そうしたら3本ぐらい同時に立ち上げられないかなとか、変なことも考えたりするんだけど、やっぱり一つ一つこなしていかないと。自分の現場、こうして、ずーっとこういうことでしか1本作れないっていうのはやっぱり監督の資質、監督向きなんだろうなと思っているんですけど。その資質は自分で作ってみないとわかんないし、監督っていうのは、こういうものを作りたいと思ったら、それを本に書くってことがまず第一歩だと思うんですけどね。人に書いてもらうのもいいですけど、やっぱり自分が、仙ちゃんがこれからは編集もできないとって言うのと同じで、自分が本書けない監督は人に本書かせても直せないですから。だから自分でやんなきゃいかんだろうなっていうふうに思いますね。 あとはプロデューサーこそが必要だっていうふうにおっしゃられましたけど、もう僕らの中ではプロデューサーはいるって思ってるんですよ。「プロデューサーいない」って今でも言うんですけど、大体遅れてくるわけですよ。もう実際、前に進んでいる時は現場ではプロデューサーの責任じゃないよねっていうところまで来てると思うんです。日本映画も去年、随分評価されましたけど、もう5年ぐらい前から海外では、どこ行っても日本映画はもてはやされるし「素晴しい。あんなにバラエティーに富んで」って言われて、あと一歩だねって、あと残るは日本だけだということで。日本がどうやったら評価してくれるか、海外では受けてることをどうやったら知ってくれるかみたいな部分で、でも俺たちは先に行かないとという時点だったんですよね。去年もそれは時間が証明してくれるでしょうみたいな言い方をしたら、あっという間に証明してくれたわけですけど。今、プロデューサーが足りないんじゃなくて、プロデューサーはもういるんです。それは自分がアンテナを張って、どの人と組めるかなっていうことを考えていくことと、あとはプロデューサーの責任にするんじゃなくて、システムも悪いんじゃなくて、システムもそれだけのシステムができてきているんだから。じゃあ何を作りたいかって、本当に監督が、自分の映画を、これをやりたいんだってことをはっきり言わないと、もう完全に負けてしまう時代が来てると思うんです。だから作家としては嬉しい時代でもあり、苦しい時代でもあると思うんですけど、あっという間に駄 目な奴は潰れていくと思いますね、これから。

●浜野:仙頭さんは3月に今日の話をもっと深く突っ込んだ本を出されますので。日経新聞だったですか。日経新聞社から出る本の方にも書かれてますので、是非お買い求めいただいて。

●利重:俺も本出すんですよ。3月24日ぐらいだと思うんですけど、角川書店から「東京ウォーカー」っていう雑誌でずっと連載やってた「街の声を聞きに」っていうのが出るんで買ってください。これ買っていただくと、印税が入って自己資金で映画が作れるのかなと思っているんですけど。

 
 
(セミナーでの発言から一部を抜粋して掲載しています)
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