eAT'14 スーパーレクチャー

『ロフトワークとFabCafeと浦島太郎』


林 千晶
株式会社ロフトワーク 代表取締役

林  千晶
株式会社ロフトワーク 代表取締役

ホントに気楽に、普段の講演では言わないような話しちょっと気楽にしていきたいな、と思います。で、ロフトワークについて。見たところ想像以上に若い人が多くて、何で会社作ったの、とか会社作るのって大変じゃないのっていう、そういう役立ちにもなればいいなと思ったので、ちょっとロフトワークの説明をしようと思います。もう13年前になってしまったんですけれども、もっとデザイナー、クリエイターと言われる人たちが、自由に仕事をもらえたり、自分の仕事を発表できたりするような、プラットホームを作りたいなと思ってはじめたのがロフトワークです。

でもどうやってお金にしたらいいかっていうのは一切イメージが無くて、とにかく創りたいっていう人たちを繋ぎ合せていったら何かになるんじゃないかと思ったんですね。で、最初のうちは全然クリエイターが集まらなくて、うちの母親が「クリエイター登録してあげたわ」「マフラー作って売ってあげる」って、ロフトワークの10人くらいしかいないサイトに登録してやったんですね。売れるわけないじゃんと思って通帳を記帳したら、3000円って振り込まれてて、うちの母親のマフラーを買った人がいるんですよ。もしかしてマフラーってクリエイティブでイケてるのって思ったら、うちの母親の友達が買ってくれているっていうそういう構図で、ある日母から「お母さんはマフラー何個売ったらあなたはお給料を取れるようになるの?」っていわれました。そのときのロフトワークは手数料で売り上げの10%をとっていたので3000円のマフラーを母親が売ってくれると300円、いつお給料をもらえるようになるのか分からないと思っていたのがその当時です。

そんな状況だったので、会計をみてくれていた平田さんっていう会計士が、僕の名刺つくっていいよって10万円で発注してくれたこともよく覚えています。こんな風に、どうやって仕事になるのかっていうのは一切分からず、でも、クリエイターってすごい、デザインってすごい、何かを変える力があるはずだっていうことだけはその時からずっと変わっていなくて。で、1年後に500人くらいはクリエイターが集まったので、クリエイターが創る年賀状は普通と違う、というのをオンラインサービスで2001年に提供したんですね。それをみた筆王っていう年賀状ソフトを作っている会社が、すごくおもしろいから、クリエイターにおもしろいコンテンツ作ってよ、っていうことで、初めて80万っていう請求書を出したことを覚えています。請求書の出し方も分からず、この会社の人に「すいません、請求書ってどうやって出したらいいんですか」っていったら、エクセルのテンプレートをくれたことも覚えてます。

こんな形から少しずつ、クリエイターがどんなことにワクワクするのっていうことを繋げて行き、次に、ブロードバンドの時代ですね。毎日更新、クリエイターがブロードバンドのおもしろさを教えていく、って言うサイトの運営に関わることになり、15人体制くらいでクリエイティブの視点でブロードバンドコンテンツを紹介する。ここから日々更新するたびにシステムって大切だよねっていうことで、更新するシステムなんかを考えていくようになったら、こんどはそれが文科省みたいなすごく大きなwebサイトをどうやって安定して更新していけばいいかっていうプロジェクトにちょっとずつ繋がって行き、このプロジェクトをやるときには100人くらいのクリエイターとプロジェクトチームを作って、コンテンツを考える人、情報設計をする人、システムを作る人っていうような形で、全部、ロフトワークドットコムっていうオープンのクリエイターデータベースに登録してくれている人たちとバーチャルにクリエイティブのチームを作る、という形で2000年の時からずっと変わらずにやってきています。

それは進化してきて、インターネットとクリエイティブの力で何ができるのっていうことでやっている1つは、例えば、健康サービスの開発。単純にwebを作るっていうことじゃなくて、webとプロダクトがくっついたときに、どうやって健康支援するサービスを提供していけるんだろうということ。また、働くことの形がどんどん変わってくる中で、使う人、企業の人、デザインの人が一緒に仕事をしながら新しいサービスを作っていく方法として、イノベーションセンターの空間デザインということにも取り組んでいます。

デザインの力でどんな新しいサービスやビジネスが創れるのかという延長線の中で、地域が持ってる可能性にも向き合っていて、その一番新しいプロジェクトが石垣島の名産品のリデザインのプロジェクトです。金沢も伝統工芸が本当に強いところだと思うのですが、多くの、地域の伝統工芸が抱える課題というのは変わらない価値を伝えなければならないというミッションがある、でも変わらない価値を維持するっていうのはまったく変わらないことではないはずなんです。何も変わらないでいると単純に古い物になってしまう。でもどう変わればいいのかがすごく難しい。これに対して、外からの視点と流れをもっと混ぜ込んで自分たちの良さを見つけていこうと言うことで、海流のように日本から、そして、台北と近いということもあってアジアっていう海流も視野にいれて石垣島の文化を見直すというようなプロジェクトをやっています。10個の石垣島を代表するようなアイテムをひとつずつの業者の人たちを回って、選定して、それをオンラインでストーリーとして伝えて、300人くらいの世界中のクリエイターの人たちから、プロダクトの提案、デザインの提案、ネーミングの提案っていうものをもらって、今クリエイター10人が石垣島に集まって地元の人たちと一緒にプロダクト開発を進めています。

ということで、もう13年も経ってロフトワークって言う会社を振り返って見ると、20世紀型の資本主義で考えると成功ではないのではないかな、と思っているんですけれども、21世紀型の新しい価値、何のために私たちは生きているのっていうことで考えると、やりたいことをやれてるって言う意味で、おもしろい取り組みができているのかなと思っています。

ロフトワークが大切にしていることってなんなのかなって思うと、わらしべ長者が結構参考になるな、と思ってます。わらしべ長者は、藁ひとつから、そこに虻(あぶ)をくっつけてミカンにかえ、それを具合の悪い女の人にあげることで反物(たんもの)になり、反物が馬になって、馬がお金持ちの長者の人と交換になって、その結果、お金持ちのお父さんが帰ってこなかったので娘と屋敷が手に入るという、「取引で、始まりからゴールという形になっています。

ここで私が思ったのは、人って日々、いろんなことを取引すると思うんですね。今この会場の中でも情報の取引をしている。仕事でもいろんなことを取引している。ついつい私たちってお金だけの取引でそれが上手くいったかいってないかって考えるんですけど、これからのビジネスを考えるときに、お金になっていないところでどんな価値を交換しているかっていうところがすごく大切になると思っています。例えば、困っていることに自分が何ができるか、と考えるとソーシャルビジネスになるし、藁に虻をつけるっていう物と物をくっつけて新しい価値を生み出すっていうイノベーションにもなるし、時にはお金を持っている人たちに戦略的に取引をするということも必要となる。このわらしべ長者って結構奥が深い物語だな思っていて、そのポイントはお金だけの価値にとらわれずに私たちが普段、何と何を交換しているのかをもう一度大切にするとやりたいことや一緒に仕事をする人が変わってくると感じています。

こんなロフトワークが新しいチャレンジとして去年からはじめているのがfabcafeと言われている事業です。どんなものなのかというと、カフェなのでもちろんコーヒーが呑めます。でもその横にはレーザーカッターとか3Dプリンタとかがあって、話しをしながら何か思いついたときにすぐそれを作ってみる、形にしてみるっていう事ができる場所になっています。日々いろんな人が来てくれて、毎日実験をしています。デジタルファブリケーションとデザインの力をこのfabcafeで追求しているのですが、その1つは伝統とfabの実験。漆が表面に塗ってあるシートをカットして自由に組み合わせながらアクセサリーを作ることで、どんな表現ができるかって言うワークショップが開催されて多くの女性が楽しんでいますし、表面を削ってそのうえに金箔を塗るだけで新しい蒔絵の表現になったりする。あるいはまったく新しいプロダクトができてもいいよねっていうので、従来、本というのは綴じられていて1枚ずつ捲っていくものなのですが、fabcafeで新しく生まれた本というのは閉じたときはおんなじなのですが、広げると360度に広がって文字が無くても物語が伝わるという本を今開発しています。近くによってみて見ると回すたびに違う表情が見えてきてそのオリジナルのストーリーを作っていく事ができる。

まだまだこのデジタルファブリケーションというツールでどんな事ができるのか、どんなビジネスが生まれるのかっていうのはまだ見えてないんですね。で、見えてないから見えるまでやらないのではなくて、見えてないときにはやりながら見えていく、要は未来を作っていくというのが21世紀型の未来の作り方なんじゃないかなという風に思っています。

ということで、fabcafeっていうのはみんなの実験場で、コンセプトはdo it yourselfではなくて、do it with others。今、世界中からfabcafeっていうネットワークでクリエイティブの力でどんなものができるのかっていうのを実験したいっていう問い合わせが世界30都市以上から届いてきています。このfabcafeっていうものをフランチャイズのビジネスではなくて、新しい、会社でもない、NPOでもない、存続できる新しいビジネスの形として広げられないかなというのが今私が一番力を注いでいるプロジェクトです。それはどういう風にデザインしているかというと、fabcafeを造りたいと言う人が100人のクリエイターのネットワークをもっていますかということだけを聞きます。従来のカフェの概念は一切関係なくて、都市のブランディングも関係なくて、誰がはじめるのかって言うことで始まる地域のビジネスのチャレンジっていうことでもありますし、私たちはお互い信じ合っている者同士だから、最悪のケースではなくて分からないことは協議で決める、絶対に守りたいことだけお互いに決めようね、っていう相互信頼をベースにしたアグリーメントと言う形でしか新しいビジネスは生まれないと思っていて、この相互合意書っていうことでfabcafeをはじめるというスタイルをとっています。

それから、マニュアルというものを創りません。マニュアルというのは創った瞬間に過去のものになってしまう。そうではなくて、生の売り上げのデータ、企画のデータ、誰がどんな風に動いているかっていう情報を全部オンラインでシェアして、その情報が生のマニュアルになる。そういう学び合いが一番大切だと思っていて、情報を生で活かしてお互いに教えあうというような挑戦もしています。最後に、3分ほど、ロフトワークが今年の年末年始の決意と言うことで創ったムービーを見てもらいたいと思います。

MITメディアラボの伊藤穰一がとてもおもしろいことを言いました。変人が作っていく革命が未来を作る、それはバウハウスの時のように、あるいはヒッピーの革命のように名前が付いた瞬間に存在するものになる。まさに今日ここにいる人たちもきっと変人の集まりなんじゃないかと言う意味では今日の会議が終わるときにこの変人革命にいい名前が付いていて50年後くらいに、あぁ、あの世代を生きた人たちって●●●●ねってなるような、そんな革命の始まりになればいいなと思っています。